2016年12月27日火曜日

Omix Visualization

一次代謝の研究をしていると、代謝物量、遺伝子、酵素発現量、代謝フラックスなどの実測データを代謝パスウェイ上にヒートマップとして可視化したくなります。そこでVANTEDCytoscapeなどのグラフ(ネットワーク)可視化ソフトウェアを流用して、代謝経路を表示していました。がしかし、もともと、グラフ解析用のソフトウェアなので、代謝経路を取り扱うのには無理がありました。こういうことがしたいんです。

・代謝物ノード間に矢印で反応を表現する。これはグラフ解析用のソフトウェアでできます。
・2基質反応を表現するために、2個のノードとノードを繋ぐ複合矢印を1つのオブジェクトとして取り扱いたいです。これはグラフ解析用のソフトウェアではムリです。
・さらに、酵素、遺伝子発現量を取り扱うために、代謝物ノード間の矢印の横に、さらに酵素、遺伝子発現量を表示するノードをぶら下げたいのです。矢印を動かしたらそのノードもつられて動く。とうのが素敵です。これもグラフ解析用のソフトウェアではムリです。

代謝専用のオブジェクト塗り絵ソフトがあればいいなー。とおもっていたら、ASMSで見つけました。Omix Visualizationです。どうもドイツのフラックス解析の巨匠Wolfgang Wiechertのところで学位をとったDr. Peter Drosteが学位論文?かなにかで作ったソフトウェアをもとに立ち上げたベンチャー企業の製品。のようです。みたところ、これこれ、こいうのがほしかったのと言うのが全部出来る感じなうえに、FBAとか動的モデリングもプラグインで実行できるみたいです。自分でプラグインも作れるらしく、12ヶ月使用権のアカデミックライセンスが189.9ユーロ。。これは自腹で買っちゃて人柱になれってこと?もしすでにお使いの方がおられましたらぜひ、感想などお聞かせ願いたいです。



メタボロミクス集中講義@静岡大学

12/26,27と2日間、静岡大学理学部の瓜谷 眞裕先生にお招きいただき集中講義を開講しました。

講義:メタボロミクス

目的:代謝を包括的に解析するための技術の基礎と応用法を理解する。

内容:メタボロームとは、生体中に含まれる代謝物の総体のことである。メタボロームには遺伝的な要因にくわえ、環境からの影響も反映することから、有用な表現型として活用されている。
代謝物の定量分析に用いる機器分析法の基礎を学び、取得したデータから細胞内代謝を理解するための方法論を学ぶ。


  1. メタボロームとは? 代謝を調べることでどんなことがわかるのか概観します。
  2. 代謝物分離法の基礎 クロマトグラフィーの基礎を学びます。
  3. 質量分析の基礎 質量分析法の基礎を学びます。
  4. メタボロームデータの解析法の基礎 メタボロームデータの解析に用いられる多変量解析の基礎を学びます。
  5. メタボローム研究の実例 メタボローム分析を活用した研究の実例を紹介します。
  6. メタボロームと他のデータをつなげる メタボロームデータを活用した生命現象の理解について議論します。

計20名弱の3年生と4年生が十三ションベン通りを例にしたクロマトグラムの説明に始まり、出芽酵母一次代謝の安定化機構に関する謎解きまで、2日間真剣に参加してくださりました。(静岡土産にすいせんしてくれた「こっこ」は大変美味でした。)
レポートの提出期限はH29/1/7ですので、がんばってください。



2016年11月2日水曜日

技術補佐員募集

松田の所属する大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻代謝情報工学研究室では現在技術補佐員の募集を行っています。

募集の詳細

微生物の代謝を質量分析装置を使っていろいろしらべて、低炭素社会の実現に貢献する研究を一緒にがんばってくださる方を大募集中です。機器分析、バイオ研究の経験者、未経験者に関わらず興味のある方はぜひ「募集の詳細」をご確認の上、ご一報いただけますと幸いです。


2016年9月5日月曜日

スズキMotoGP勝利

WGPを見始めた1年目の2000年秋に茂木でみたパシフィックGPのことは良く覚えている。最高峰クラス初年度のロッシがNSR500でS字を抜けるところを一つ目のガードあたりから見てシビれたこと。快晴の決勝日、125ccで当時ごひいきだった宇井がこけて泣いたこと。250ccでの加藤vs中野の息もつかせぬようなせめぎ合い。結局最初から最後まで逃げ切った加藤が勝った。ここで追いかけて負けた中野は、チャンピオンがかかった次のフィリップアイランドで、オリビエ・ジャックとのデッドヒートで逃げに逃げ、しかし結局勝てなかった。それから、茂木の500cc決勝では、スズキのケニー・ロバーツJrが独走で勝った。そのときはその意味に気づいていなかった。その後、17年近く楽しくレースの行方を見てきたが、昨日のイギリスGP@シルバーストーンでの最大のニュースはスズキGSX-RRを駆るマーベリック・ビニャーレスが独走で勝ったことだ。スズキの完全ドライでの勝利はあの2000年秋の茂木以来(ウェットでも2001年バレンシアと2007年フランスが2回あるのみ)。私はその間、清く正しく鈴菌に感染し、SV650というバイクに乗ったりしながら(今はホンダに浮気中)、この日を待っていたのです。

2016年8月29日月曜日

天然同位体の影響をマススペクトルから除去する方法

13C標識炭素源を活用した代謝の解析が活発化しています。細胞内の代謝の流れに関する知見が得られる点がうれしいのです。しかしなから実験結果から正しい知見を得るにはいくつかのクリアすべきハードルがあります。詳細は下記の論文をご覧ください。

Buescher  et al. A roadmap for interpreting 13C metabolite labeling patterns from cells. Curr Opin Biotechnol. 2015 Aug;34:189-201. doi: 10.1016/j.copbio.2015.02.003. 
PMID 25731751


まず、下記の2点を確認する必要があります。

  1. 代謝定常が仮定できること。13C標識炭素源を添加後、代謝物を抽出するまでの間に代謝フラックスが変化しないと想定できること。培養細胞の場合細胞が対数増殖している間は、偽定常とみなすことができます。また、組織だと代謝の変化が非常にゆっくりであり、13C標識炭素源を添加後、代謝物を抽出するまでの時間の変化は事実上無視できる場合も偽定常とみなすことができます。一方、薬剤やホルモン処理等によって起きる数分レベルでの代謝の変化を捉えることは困難です。
  2. 同位体定常に到達していること。13C標識炭素源を添加後、細胞内代謝経路中の13C標識割合が経時的な増加期間を終えて、定常に到達していること。これは、実際に実験をして、13C標識割合の経時変化を調べて確認するしかありません。


次に、測定した各代謝物の13C標識割合(Mass disctribution vector, MDVというとかっこいいとされる)から天然同位体の影響を除去する補正をかける必要があります。

1.例えば例として、細胞内のPhosphoenolpyruvate (PEP) のプロトン脱離分子[M-H]-のMDVを実測したところ下記のようになったとしましょう。

m+0  0.5746
m+1  0.1172
m+2  0.1074
m+3  0.2006

総和が1.000になるようにしましょう。正確にはm+4, m+5も考慮したほうがいいのですが、対処法は後述します。

2.PEPのプロトン脱離分子[M-H]-の組成式はC3H5O6P-H = C3H4O6P です。Isotope Distribution Calculator and Mass Spec PlotterでC3H4O6P, C2H4O6P, C1H4O6P, H4O6P(炭素がひとつづつ減少)の天然同位体パターンを取得します (Calculation method: Low resolution, Minimum abundance: 0.01%)。

C3H4O6P
167 100
168 3.55
169 1.25
170 0.04
171 0.01

C2H4O6P
155 100
156 2.47
157 1.22
158 0.03
159 0.01

C1H4O6P
143 100
144 1.39
145 1.2
146 0.01
147 0.01

H4O6P
131 100
132 0.3
133 1.2
135 0.01

3.これらのデータをエクセルを用いて下記のような表にします。




4.次に、各組成式ごとに強度値の和が1になるように補正します。各組成式ごとに強度値の和を計算し、それで割ればOKです。
空欄は0にします。




5.炭素数+1=4なので4×4の正方行列を切り出します。




6.逆行列(n次元)ウェブページ(カシオ計算機株式会社提供)逆行列を計算します。
行列Aに上記の正方行列をコピペし、「計算」をクリックすると逆行列A-1が計算される優れものです。





7.得られた逆行列をエクセルにコピペします。


8.逆行列と補正前のMDVから補正後MDVを計算します。

補正後MDV = 逆行列・補正前MDV

という行列計算です。


この時、B8セルは
=B2*B$7
という式で計算しています。E11までのセルはこれのコピペです。
A8セルには
=SUM(B8:E8)
という式で和を求めています。A11までのセルはこれのコピペです。

A列に補正後のMDVが計算できます。


9.しかし、m+4, m+5も考慮したほうがいいところをm+3までで計算したので、総和が1.000になっていません。そこで、補正後MDVが総和が1.000になるようにさらに補正します。



以上で補正前のMDVから
m+0  0.5746
m+1  0.1172
m+2  0.1074
m+3  0.2006

天然同位体の影響を除去した補正後のMDVを計算できました。
m+0  0.600
m+1  0.100
m+2  0.100
m+3  0.200


10.論文ではMDVから天然同位体の影響をFernandez et al. (1996). J Mass Spectrometry. 31:255-262に従って補正したと書くとよいです。

11.無保証、自己責任でご利用お願いします。


2016年6月23日木曜日

マススペクトルの正規表現

以前、理化学研究所時代に、標準化合物のMS/MSスペクトルデータを取得し、MassBankから公開したことがありました(PR1シリーズ)。さらに植物二次代謝物の文献MS/MSデータを入力し、澤田さんらと共同でReSpect for Phytochemicalsというデータベースとして公開しました。その過程で、いろんな化合物のMS/MSを見て、いろいろ思うところがあったのですが、構造が類似した化合物のMS/MSスペクトラムには、共通のパターンがあることがある。という事実をもう少し活用できないのか。という点がずっと引っかかっておりました。
また、恩師の上野民夫先生(京都大学名誉教授)からは、「マスは重さしかわからないから、マスだけで構造は決められないけど、重さが決まるのがすごいんや」と薫陶をうけてきた身としては、MS/MSスペクトルからの構造推定を"Small molecule identification"と呼ぶインフォマティクスの皆さんの感覚に、ものすごく違和感がありなんか違うアプローチがないものかといろいろ考えていた結果を今回論文にまとめることができました。

F. Matsuda. Regular expressions of MS/MS spectra for partial annotation of metabolite features. Metabolomics (2016) 12:113

例えばMassBankレコードのPeonidin-3-O-α-arabinoside (PR100453)のMS/MSスペクトルデータを数字で書くと

PK$PEAK:
m/z int. rel.int.
258.0558 810 2113
286.0496 2159 301
301.0719 7171 999
433.1134 1231 171
//



となりますが、強度値を無視して無理やり文字列にすると

C14H10O5:C14H10O5;C1O1:C15H10O6;C1H3:C16H13O6;C5H8O4:C21H21O10;

とも書けます。[ニュートラルロスの化学式]:[フラグメントイオンの化学式];の繰り返しです。
文字列といえば正規表現ですよね。そうすると、peonidin-pentosideのヒドロキシル化 or メチル化orメトキシ化物にマッチする正規表現は、

(C14H10O5|C14H10O6|C15H12O5|C15H12O6):([CHONS][0-9]*)+;(C1O1|C1O2|C2H2O1|C2H2O2):([CHONS][0-9]*)+;(C1H3|C1H3O1|C2H5|C2H5O1):([CHONS][0-9]*)+;(C6H10O5|C6H10O6|C7H12O5|C7H12O6):([CHONS][0-9])+;

となるんじゃないか、とかChEBIではflavone C-glycosideという化合物群にオントロジーとしてCHEBI:83280というIDを振っています。そこで、flavone C-glycosideの1グループである、trihydroxyflavone-C-hexosideの特徴的なフラグメントパターンを

C16H11O5;C1H2O1:([CHONS][0-9]*)+;C2:([CHONS][0-9]*)+;C2H8O4:([CHONS][0-9]*)+;

という正規表現で定義することができそうです。次にある代謝物のMS/MSスペクトルに、この正規表現にマッチすれば、その代謝物はCHEBI:83280 (flavone C-glycoside)というIDを持った化合物として”部分”構造決定ができるんじゃないかなー。などのアイデアが展開されていますのでその筋の方はぜひご覧ください。

本研究では西岡孝明先生(京都大学名誉教授)、有田正規先生(遺伝学研究所)、尾嶌雄也氏(MassBank)が作成されたfragment ion and neutral loss matrixデータが極めて重要な役割を果たしました。改めて心より御礼もうしあげます。また澤田有司博士、山田豊氏 (理化学研究所生物資源研究所)、櫻井望博士、秋元奈弓博士(かずさDNA研究所)の皆さんにはデータベース化および研究に関する貴重なご助言をいただきました。ありがとうございました。

個人的には研究者人生で一度は単著論文が書けてヤターというのはナイショであります。




2016年2月27日土曜日

GC-MSを用いた13C代謝フラックス解析法の紹介

現在島津製作所様のご助力をいただきGC-MSを用いた13C代謝フラックス解析法の開発を進めています。そこで、13C代謝フラックス解析法の実際を紹介したテクニカルレポートを作成しました。みなさまのご理解の一助になれば幸いです。

GC-MSを用いた13C代謝フラックス解析法の紹介

2016年2月13日土曜日

Arrows M02 + UQ mobile データSIMについて

興味があったので、富士通のArrows M02を買いました。もちろんFM TOWNS派ではなく、X68000派だったし、自分で買うPCはなぜかいつもバイオだし、島津製作所の装置についてくる制御用PCくらいしかご縁がなかったのです。とくに今のiPhoneに不満があったわけではないのですが、なんかいろいろとこれまでの流れに抗ってみたくなり、海外勢のスマホの安さに流れるのもやだし、国産でもシャープでもソニーでもない、というは理由でArrows M02が浮上したきたのです。

Arrows M02を使ってみて思ったこと

  • 5インチ画面はちょうどいい。
  • Android5は必要十分という意味で完全にゾーンに入った。
  • Andoroidだからできないことはほとんどない。
  • Android5はむしろiOSよりも細かい工夫がいい。「アプリの一斉停止」などが普通にできる。
  • Arrowsのスライドディスプレイは涙が出るほど便利だ。
  • しかしAndroid5は見た目がダサい。昔のWindows95みたい。が、いくらでもカスタマイズができる点はすごい。
  • iOSはジョブスの理想を具現化した点かプレミアだ。しかし、ジョブスなき今、一昔前のMacOS9のようなごちゃごちゃ感が出てきたし、次の理想がわかりにくいので、「アプリの一斉停止」ボタンをつけない。というような、美意識はむしろうっとおしくなってきた。Arrows M02の本体代3万円に対するiPhoneの9万円というプレミアの説得力は落ちてきているように思う。
  • この辺はMacOS9とWindowsXPくらいの関係に近い。

  • 格安SIMでも電波の入りと通話はまったくは全く問題ない。
  • キャリアとの違いは、データ通信速度だ。
  • 試しに使ってみたワイアレスゲートのデータ通信速度はものすごく遅い。インターネットラジオは絶望的。
  • UQ mobileはネットのうわさ通りかなり早い。
  • ただし、AU系のNVMOでArrows M02を使う場合は、VoLTEのSIMを選ぶ必要があるようだ。
  • 間違って注文したUQ mobileのLTEデータSIMを試したところ、異常にバッテリー消費が早くなった。いわゆるセルスタンバイといわれる現象(通話用の電波を検索しつつけるためにバッテリーを消費する)に類似した何かがおきているようだ。
  • そこで、モバイルネットワーク設定の優先ネットワークモードをLTE/3G/GSM(自動)からLTE/3Gにしたらなおった。
  • よかった。