2017年12月12日火曜日

第160回 質量分析関西談話会


第160回 質量分析関西談話会を下記の概要で実施する計画です。今回は

「代謝物ビッグデータを取得する方法とバイオマーカー探索への効果的な使い方」

をテーマに実施いたします。定量をきちんとするにはどうすれば
いいのか皆様の間で情報と意見交換を行えればとおもいます。
お誘いあわせの上、ご参加のほどどうぞよろしくお願いします。

世話人代表松田史生@阪大

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第160回 質量分析関西談話会プログラム
「代謝物ビッグデータを取得する方法とバイオマーカー探索への効果的な使い方」

2018年2月10日(土) 13時30分~16時50分
京都・嵐山 ご清遊の宿 らんざん
京都市右京区嵯峨天竜寺(嵐山渡月橋北岸を河に沿って上流(西)へ)
電話075-864-0088
交通アクセス:http://www.kyoto-ranzan.jp/access/index.html

質量分析法の最大の用途の一つは、薬物動態研究やバイオマーカー探索における、薬物、薬物代謝物、内因性代謝物等の定量です。正確なデータを多く取得するのが分析の使命であり、近年では取りためた定量値をまとめて「ビッグデータ」として活用したい社会的要請があります。しかし、互換性のないスモールなデータセットがビッグにあるのが実情です。そこで第160回 質量分析関西談話会では、正しい検量線の引き方や信頼できる定量値を得るための考え方について、産総研バイオメディカル標準研究グループの絹見 朋也様よりご紹介いただきます。また、網羅的なメタボローム分析からバイオマーカーを同定する方法は、標準化合物なしでの相対定量が試みられていますが、定量値の信頼度評価法が課題となっております。東北大学東北メガバンクプロジェクトにおける大規模コホートメタボローム研究において、実際に大量のデータ取得を担っておられる三枝 大輔様にデータ解析方法を含めた現状をご紹介頂き、得られた代謝物ビッグデータをバイオマーカー探索にどの様に活用するべきかを議論したいと思います。ぜひこの機会に日頃から抱いておられる疑問等をお持ちいただき、当会を十分に活用していただければと思います。

講演プログラム:
「ペプチド・タンパク質の標準物質開発と標準化」
絹見 朋也(産総研)
「標準化合物なしで正確な相対定量を行うための考え方」
三枝 大輔(東北大学)
「総合討論」
バイオマーカー探索、メタボローム分析等で取り扱う、標準化合物がない内因性代謝物の相対定量データと、どのように統合し、活用していくのかについてパネリストのみなさまからの話題提供をもとに討論を行います。

参加費:
無料

参加申込み:
参加希望の方は、(1)氏名、(2)所属、(3)メールアドレス、(4)日本質量分析学会
会員/非会員の別を添えて、下記メールアドレスにお申し込みください。
kansai17_%_mssj.jp (送信の際は、_%_を@に変えてください)
関西談話会世話人代表 松田史生(大阪大学)


懇親会:
懇親会は、関西質量分析関係者の集う「鮟鱇を食べる会」として開催します(17時30分開始、会費8,000円、当日参加はできません)。懇親会への参加をご希望の方は、談話会参加申込みとは別に1月末までに下記にご連絡下さい。
問い合わせ先:宮下正弘(京都大学)e-mail: miyamasa[at]kais.kyoto-u.ac.jp([at] は @ に置き換えて下さい)


世話人:楠本 雅典(大日本住友製薬)、宮下 正弘(京都大学)、黒野 定 (和光純薬工業)、松田 史生 (世話人代表、大阪大学)


風邪ひき読書

風邪を引いたので積ん読本をよみました。読まないと書けない質なのでまずは読むわけです。
ローカリズム宣言(内田樹、デコ)
読んだら効くひとりは内田樹です。180ページの日本の学術的発信力の劇的な低下に関するForeign Affairsの記事というのはこれ、でNatureの記事はこれでしょうか。必読ですな。

辞令(高杉良、文春文庫)
会社勤めはしたことないけど、この本を読んでいると、仕事するヒマないくらい根回しとかにいそがしそうでした。

兼好法師(小川剛生、中公新書)
高校の授業で習った、兼好法師に関する記述はほとんどが誤りであるというおそるべき事実を検証した本。吉田兼好っていう名前がそもそもねつ造とのこと。歴史学、というか文献史学は最高に面白くて、黒田 日出男の「国宝神護寺三像とは何か (角川選書) 」とか、「謎解き洛中洛外図 (岩波新書)」の、通説の矛盾点を見つけ、広大な文献から参考となる資料を渉猟し、資料の行間を縦横無尽に組み合わせつつ読み解いて、これまで見えてこなかった事実が浮かび上がってくる様子は、いいミステリーを読んでいるようで最高に楽しいです。本書においても、始まって3ページ目からの「この通説は完璧に見えるが、疑問を禁じ得ない。」に始まるこれでもかと続く問題提起と、紙背文書の裏読みからめくるめく明らかにされるプロセスは、名探偵の推理を聞いている少年探偵団の隊員のごとく、わくわくものであります。兼好法師像というのは、読解にも関わってくるので、高校の古文の先生はさぞ困るでしょうなぁ。あと、システム生物学の論文でこういうのが書きたいな。とおもいました。

深読み日本文学(島田雅彦、集英社インターナショナル新書)
本書の狙いが今ひとつはっきりしないので、なんともいいようがないのでありますが、日本文学史を整理する新たな切り口を提示しました。というのであれば、あくまでも文学関係その筋向けの業界内文書にとどまってしまうのであり、もう少し好意的に、一般向けに書かれたんだと見てみると、これを読んで島田雅彦はあたまいいなぁとか感じる人が出る可能性は万が一にでもあるかもしれないが、じゃあ日本文学を読みたくなるかと言われると、まったくそうではないようなので、「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそというガイドブックだと思えば、ま、そんなもんか、と納得はするのでした。


奇巌城(モーリス・ルブラン、南洋一郎訳、ポプラ文庫クラシック)
むかし、「奇巌城」「シャーロックホームズの冒険」「ドリトル先生アフリカ行き」を買ってもらって、まずはドリトル先生にはまり、それからホームズにいったので、ルパンには疎いのです。「奇巌城」にはホームズが出演するのですが(しかも因縁ありげだがあまり活躍しない)、こう言うのって事前になにか相談したり、版権のやりとりとかあったんでしょうか。。。などが気になってしまいました。研究プロジェクトで世知辛い知財の話ばっかり聞かされていると、人間がセコくなる、、、

未必のマクベス(早瀬耕、早川文庫JA)
「グリフォンズ・ガーデン」は確かOhX!に荻窪圭が書評を載せていて、放課後に姫路の本屋で立ち読みで読破したはずなんだが、どんな話だったかと言われると、数字あるいは数式に色がある。という女の子が出て着る話だったような気がする(また、そういう女の子に出会いたいという数学者の愚痴をその数年後に飲み屋で聞かされたこと)以外、とくに何も覚えていないのだが、その作者の20何年ぶりの新作の文庫化ということで本屋で山積みだったし、梅田のブックファーストのランキングでも6位だったので読んでみた。東南アジアアジア+ハードボイルド+初恋以降+理想の女+謎+カクテル飲みまくりということで、矢作俊彦の「ロング・グッドバイ」の気の抜けたやつ。という感じではある。ダイキリも甘いが、キューバリブレはもっと甘いのだ。さらに、オチとかはあんまりにも情けない願望がそのままなので、もうちょっとどうにかならんものか、、。この作品が好きな方は矢作の「ロング・グッドバイ」をぜひ。

勁草(黒川博行、徳間文庫)
年に一度のお年玉、とかクリスマスプレゼントって感じでよむとこの安定感と大阪弁がたまらない。今回は、オレオレ詐欺グループとそれを追う警察グループの視点が交互に入れ替わりつつ進むので一粒で2度おいしい感じである。

☆Motor Fan illustrated 134号(三栄書房)
特集は水平対向エンジンである。水平対向エンジンの利点は低重心、バランスがいい。の2点だが、フロントに置くと排気系の取り回しが苦しく、うんぬん、などとおしえてもらい、なるほどなあと図面をながめているだけで結構楽しい。













2017年11月20日月曜日

MS/MSフラグメンテーションの正規表現を用いた代謝物アノテーション

日本化学会情報化学部会の「Journal of Computer Aided Chemistry」<岡田孝先生・西岡孝明先生の退職記念号>へ、「MS/MSフラグメンテーションの正規表現を用いた代謝物アノテーション」をいう原稿を寄稿する機会をいただきました。西岡孝明京都大学名誉教授、金谷重彦奈良先端科学技術大教授に心より御礼申し上げます。メタボロミクスにおける化合物同定を正攻法でやる気だけは全くない、場合のアプローチについての思弁がやや暴走気味に語られております。ただFDRだとかオントロジーだとかぶつぶつ言っているとこんなんとかこんなんとか出てくるのですから(10年遅いよという突込みはぐっとこらえて)書いておくことできっとどこかに届くこともあるのかもしれません。それから、最初と最後のあたりの文章は愛読する網野善彦先生の「異形の王権」あたりの影響が色濃く出ています。一度真似してみたかったのであります。

2017年11月2日木曜日

Anaconda環境でのpyOptの使用

pyOptとはPython用最適化ソルバツールボックスである。バージョンが1.2.0になったあと、更新が止まっている点が気になるが、SLSQPもSciPyデフォルトより根性がある(ようなきがする)上に、SDPENなど最新のソルバが使える点に魅力がある。またParallel pythonは関数レベルでお気楽に並列分散処理ができるので、これまた魅力的である。どちらも現在開発中のpython版13C代謝フラックス解析用ツールボックスで活用している。一方、最近のPythonのトレンドはAnacondaであろう。仮想環境+パッケージ管理システム+有用てんこ盛りなため、最近のWindows+Python環境構築のファーストチョイスになっている。話題のTensorFlowとかもAnacondaが前提らしい。そこでWindows+AnacondaでpyOptを動かす方法を調べてみたので忘備録として記す。


1. windowsのユーザー名(フォルダ名)は1 byteアルファベット、スペースなしであること
× 松田
× Fumio Matsuda
〇 fumiomatsuda
2. Anaconda 64bitをインストール (ver 5.0.1だった)
3. 仮想環境 pyflux を構築 Anaconda promptを起動
> conda create -n pyflux python=2.7 numpy=1.10 scipy=0.17 matplotlib=1.5
Anaconda用pyOptはnumpyのバージョン依存。1.9では低すぎ、最新版ではnumpyの仕様変更でエラーが出る。

4. 仮想環境を起動
> activate pyflux

4. mingw64_dllをダウンロード
ファイルを解凍して、
libgcc_s_seh-1.dll
libgfortran-3.dll
libquadmath-0.dll
を仮想環境のLibrary/binにコピー

5. pyOptをインストール
> conda install -c mutirri pyopt
mpi4pyで何やらエラーが出るが無視

6. pyOptの動作確認
> python
でpythonの起動
>>> import pyOpt
>>> pyOpt.SLSQP()
<pyOpt.pySLSQP.pySLSQP.SLSQP object at 0x00000000035A21D0>
という感じでエラーが出なければOK
>>> quit()
で終了

7. parallel pythonのインストール
http://www.parallelpython.com/から pp-1.6.5.zip をダウンロードする。
解凍したフォルダで
>python setup.py install

8. parellelpythonの動作確認
> python
でpythonの起動
>>> import pp
で確認

9. spyderのインストール
> conda install spyder

10. pyflux環境でのspyderの起動
pyfluxをactivateした状態で
> spyder

numpyはバージョンごとにちょこちょこと仕様が変わるなぁ。

2017年9月29日金曜日

第159回 質量分析関西談話会を行います!

第159回 質量分析関西談話会

日時:
2017年12月2日(土) 13時30分~17時45分(受付開始13時15分)
会場:
神戸薬科大学4号館K430教室
(〒658-8558兵庫県神戸市東灘区本山北町4丁目19番1号)
交通アクセス:http://www.kobepharma-u.ac.jp/guid/guid_06.html

主題:「質量分析技術の最新動向」&「MSのご機嫌のとりかた」
質量分析技術をもとに新たな蛋白質研究領域を開拓されておられる大阪大学の内山 進先生より水素重水素交換質量分析法の基礎と応用をご紹介いただきます。また、大阪大学の戸塚善三郎先生より、質量分析の持病の一つであるマトリクス効果について、前処理からHPLC分離・MSまでのトータルソリューションの話題提供をいただきます。
さらに今回はMSの初心者および玄人向け企画として、「MSのご機嫌のとりかた(仮)」について討議を行いたいと思います。MSのご機嫌を上手にとるにはどうすればいいか悩む初心者の皆様、いろいろあってやや倦怠期気味の玄人の皆様の間で情報とノウハウ交換を行い、いいデータがたくさん出るきっかけとしたく思います。各講演の後半には質疑応答時間を十分に取っていますので、ぜひこの機会に日頃から抱いておられる疑問等をお持ちいただき、当会を十分に活用していただければと思います。
 多くの皆様のご参加をお待ちしております。

講演プログラム:
「質量分析技術の最新動向」
内山 進(大阪大学):「水素重水素交換質量分析の蛋白質研究における利用」
戸塚善三郎(大阪大学):「マトリックス効果対策のノウハウ ~前処理からHPLC分離・MSまでのトータルソリューションを目指して~」
 
特別企画「MSのご機嫌のとりかた(仮)」
武庫川女子大学の堀山先生、大阪薬科大学の藤嶽先生、奈良先端大学院大学の西川先生、阪大の戸所先生、三宅先生より話題提供いただきます。
 
参加費:無料
講演終了後、Post Meeting with Beer & 10 Million $ Night View(懇親会)を予定しております。懇親会に参加される方は当日会場にてお志を集めさせていただきます。

参加申込み:参加希望の方は、(1)氏名、(2)所属、(3)メールアドレス、(4)日本質量分析学会
会員/非会員の別を添えて、下記メールアドレスにお申し込みください。
kansai17_%_mssj.jp (送信の際は、_%_を@に変えてください)
関西談話会世話人代表 松田史生(大阪大学)

世話人:竹内 敦子(神戸薬科大学)、三宅 里佳  (大阪大学)、黒野 定 (和光純薬工業)、吉野 健一(神戸大学)、松田 史生 (世話人代表、大阪大学)

2017年9月28日木曜日

中心代謝を理解するために定量データから学べること

中心炭素代謝経路は、糖などの炭素源を酸化的に分解してエネルギーを獲得しつつ、細胞構成要素の生合成前駆体を供給する全生物共通の基幹システムです。経路を構成する代謝物、酵素、遺伝子の有機化学、生化学的、分子生物学的検討は20世紀中にほぼ完了し、教科書レベルの知見となっています。すなわち解糖系10反応のうち不可逆(ΔG’ << 0)なのは、ヘキソキナーゼ(HXK)、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)、ピルビン酸キナーゼ反応であり、解糖系代謝フラックスの制御にはPFKが重要な役割を果たしていること、筋肉ではPFKのアロステリック制御や基質サイクルが秒単位での代謝制御を担う点は、生化学のイロハの一つといえるでしょう。また最近になって、インシュリンに対する肝臓細胞の分単位での代謝応答時にPFKのリン酸化による活性調節が起きること、さらに解糖系の反応速度を維持するために、代謝酵素の発現量が高いレベルにあることが明らかにされています。そこから、中心炭素代謝フラックスの調節はアロステリック制御やリン酸化がメインであり、酵素発現量はマイナーな役割しかないというイメージが描かれている?かもしれません。
一方、最近になってがん悪性化や免疫細胞機能分化と、エネルギー代謝すなわち中心炭素代謝フラックスの変化との関連が注目されるようになっています。また、近年活発化している代謝工学分野では、微生物の酵素発現量の改変を通じた、中心炭素代謝フラックスの人為的切り替えを目指している。その理解と応用に必要な代謝調節機構を明らかにするには、定量データをもとにした解析が必要です。そこで現在得られる代謝に関する定量データのいい点悪い点を比較した総説を書きました。この総説のウリは図1です。


  • 培養細胞の比増殖速度の計算法を実例付きで紹介している。
  • 細胞内外の物質収支を推計するためにもっともよい指標となる比グルコース消費速度、比乳酸生産速度の計算法を実例付きで紹介している。

という培養細胞+代謝マニアックな方必見の内容になっておりますのでぜひご参考にしてください。

Fumio Matsuda, Yoshihiro Toya and Hiroshi Shimizu
Learning from quantitative data to understand central carbon metabolism
Biotechnology Advances, in press


2017年9月18日月曜日

Let’s noteでWQHD

最近の27インチサイズの液晶モニタは解像度がWQHD(2560x1440)だったりします。EIZO の FlexScan EV2750にレッツノート CF-SZ6 (Intel HD graphics 620)を繋ぐ機会がありました。
普通にHDMIでつなぐと1920*1200までしか選ぶことができません。4KモニタにはHDMIできちんと出力できるのだからこれはおかしいと思い、デスクトップで右クリック =>インテルグラフィックスの設定=>ディスプレイ=>カスタム解像度で2560x1440、リフレッシュレートを59にすると帯域幅が足りないと怒られますが、リフレッシュレートを45に減らすと無事WQHDで出力できました。エンジンの馬力と広い画面は、、と言いますが、とっても快適です。試される方は自己責任でお願いします。


2017年8月21日月曜日

第158回 質量分析関西談話会プログラム確定!

第158回 質量分析関西談話会のプログラムが確定しましたのでご連絡します。


今回のテーマは

質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)&「かんたんMSの作り方」

をテーマに実施いたします。九州大学の馬場健史先生自ら「超臨界流体クロマトグラフィーを用いた代謝物分析」と題してレクチャーいただけることになりました。
また、今回は特別企画として、大阪大学の青木順先生よりMS自作派待望のご講演「かんたんMSの作り方」をお願いしております。 全国3000万の超臨界、表面分析マニア、マス自作派、藤戸派の皆さんはもちろん多くの皆さんでお誘いあわせの上、ご参加のほどどうぞよろしくお願いします。


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158回 質量分析関西談話会

日時:
201792日(土) 1330分~1755分(受付開始1315分)
会場:
島津製作所関西支社マルチホール (会場定員60名)
大阪市北区芝田1-1-4
大阪梅田 阪急ターミナルビル14
JR大阪駅ホーム北側に隣接するビルです。阪急17番街のエレベータで14階までお越しください。)
電話06-6373-6522
交通アクセス:http://www.shimadzu.co.jp/aboutus/company/access/kansai.html
主題:
質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)
 大変好評を頂きました「質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (I)(II)」に引き続き、今回は「質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)」&「かんたんMSの作り方」として、アルバック・ファイ株式会社、株式会社島津製作所様より、各メーカーの得意とする表面分析及び超臨界流体クロマトグラフィーについて原理から分かりやすくお話しいただきます。また、九州大学の馬場健史先生より超臨界流体クロマトグラフィーを用いた代謝物分析について、これまでの開発の歴史と展望についてご紹介いただきます。さらに今回は特別企画として、大阪大学の青木順先生よりMS自作派待望のご講演をいただけることになりました。各講演の後半には製品や技術に対します質疑応答時間を十分に取っていますので、ぜひこの機会に日頃から抱いておられる疑問等をお持ちいただき、当会を十分に活用していただければと思います。
 多くの皆様のご参加をお待ちしております。
講演プログラム:
馬場 健史(九州大学):「超臨界流体クロマトグラフィーを用いた代謝物分析」
藤戸 由佳(株式会社島津製作所):「超臨界流体クロマトグラフと質量分析計の接続」
眞田 則明(アルバック・ファイ株式会社):「表面微小部分析を実現するイメージング質量分析法:TOF-SIMS
特別企画
青木 順(大阪大学):「かんたんMSの作り方」

参加費:
無料
講演終了後、簡単な懇親会を予定しております。懇親会に参加される方は当日会場にてお志を集めさせていただきます。
参加申込み:
参加希望の方は、(1)氏名、(2)所属、(3)メールアドレス、(4)日本質量分析学会
会員/非会員の別を添えて、下記メールアドレスにお申し込みください。
kansai17_%_mssj.jp (送信の際は、_%_@に変えてください)
関西談話会世話人代表 松田史生(大阪大学)
世話人:
川畑 慎一郎(島津製作所)、黒野 定 (和光純薬工業))、松田 史生 (世話人代表、大阪大学)


2017年7月28日金曜日

貴重なマススペクトル

現在MassBank等で収集されているマススペクトルデータには、化合物群に偏りがあります。
植物二次代謝物では、フラボノイド、桂皮酸エステル類のデータが充実しています。標準化合物の入手が容易なため、フラグメンテーションのメカニズムも詳細が明らかになっており、「高品質なデータ」を選んで帰属したり、選抜したりする必要がもはやありません。
一方、それ以外の多くの化合物グループは、標準化合物の入手が困難なため、マススペクトルデータが極端に少なく、文献記載のデータがまれにあるという状況です。このような「レア物件」はこれまでの議論でいう「高品質なデータ」に該当しないことがほとんどですが、「化合物同定を進める」ための貴重な情報源になっています。
このため、「代謝物の同定を目的」として「高品質なデータ」を選抜する必要性は現時点でほとんどありません。分析屋が労を割くべきは、「データの信頼性を評価する方法の開発」と、「高品質なレア物件データをどのように収集していくか」にあります。

2017年7月25日火曜日

人工的なマススペクトル

発見型プロテオミクスの成功に貢献した技術基盤の一つが、ペプチドのフラグメンテーションルールに基づく、人工的なライブラリの作成法にあることは間違いありません。したがって、人工的なライブラリの作成技術が今後のマススペクトルデータを用いた代謝物構造推定に重要な役割を果たすとおもわれます。ただし、ペプチドのフラグメンテーションルールのような、簡単なルールですむ化合物がリピド以外にあるのかはわかっていません。リピドが成功した理由は、アグリコンに相当する主骨格部分(=フラグメンテーションが複雑)がない点にあります。

プロテオミクスから学ぶべきはもう一つのポイントは、同定結果の品質管理法です。初期プロテオミクスでは、緩めの閾値で同定数を競うナンバーゲームとなり、後に、そのほとんどが誤同定だったことが明らかになっています。逆配列のデコイ(偽)データベースを利用した誤同定率の推定法が開発され、発見型プロテオミクスのもっとも重要な技術基盤の一つとなっています。いまのところ、代謝物のマススペクトルのデコイデータベースの作成法や、マススペクトルの類似性のp値の計算法など、品質管理が可能な検索方法には大きな進展がありません。このような研究開発の基盤として、MassBankデータセットが果たす役割は大きいと思います。
したがって、人工的なライブラリを作成は、同定結果の品質管理法をどうするのかという問題とセットになっており、むしろ後者のほうが重要であると考えます。

他にも人工的なライブラリを作成する場合

  • 化合物IDも一般名もない化合物の人工マススペクトルデータにヒットしたとして、その化合物を何と呼べばいいのか? 
  • 異なる構造の化合物から、同じ人工スペクトルが生成しうる。そんなデータにヒットしたとして、その化合物を何と呼べばいいのか? 

などの論点があります。楽しい話題ですが、またの機会を待ちたいと思います。

2017年7月22日土曜日

品質の良いマススペクトルとはなにか?

マススペクトルの議論では下記2点を分けて考えたほうが生産的です。
(1) 物理化学特性データとしてのマススペクトル
(2) 構造情報としてのマススペクトル

品質については、実験科学である以上、再現性という観点(のみ)が重要です。

物理化学特性データとしてのマススペクトル

物理化学特性データとしてのマススペクトルとは、融点やIRスペクトルと同じく、化合物の特性を示すデータです。化合物の調製、単離からマススペクトルの取得に至る方法が、論文に記載されることで再現性が担保されています。この方法で天然から単離した、合成して単離したこの化合物サンプルから、正しく校正された装置でマススペクトルを取得したら、こういうマススペクトルが得られた。という事実に価値があります。同じ手順を踏んで、化合物を調製し、同一の条件でマススペクトルを取得したら(不純物由来の夾雑シグナル等が含まれる可能性があったとしても)同一のデータが得られるはず。という再現性が、マススペクトルの一致を根拠とした化合物同定を可能とします。

したがって、再現性の良いマススペクトルであるかどうかを判定するには、
①正しく校正された装置、条件で取得されたことを担保する情報が必要
これをデータそのものから読み取るには、
※ピークの形状が良い(profileの対称性が良く、重心が真ん中)。
※容易に帰属可能なシグナル(いわゆる分子イオン[M+H]+, M+等)のm/z値が理論値と一致していること(どのくらい一致していたらいいかは後に議論します)。
が根拠になりえます。

②再現性と不純物
1回だけ取得したマススペクトルのシグナルに、不純物由来の夾雑シグナルやノイズが含まれるか判定する方法はありません。異なる由来の同一化合物から取得した複数のマススペクトルで共通して再現性良く観測されるシグナルが、その化合物由来である。と考えるのが妥当でしょう。
したがって、再現性の良いスペクトラムが1つだけある、という状況は考えにくいです。
異なる由来の同一化合物から(できれば異なる研究室や装置で)同一条件で取得した複数のマススペクトルが冗長に存在し、その上で、再現性の高いシグナルが多く含まれる信頼性の高いマススペクトルが判明する。という理路をたどっています。
さらに、厳密にいうと、再現性の高いシグナルが本当に化合物由来かどうかはわかりません。次に取得したデータでは再現せず、夾雑物由来のシグナルであることが判明する可能性があります。となると、再現性の良いスペクトラムというのは、現時点の仮説であって、以降の検証のためにも、冗長なマススペクトルの存在が重要です。
もっというと、冗長なマススペクトルの中に、ノイズや、夾雑物がふくまれるものが含まれていても問題ありません(冗長だからエラー校正ができる)。低品質なデータにもそれなりに使い道があるという点を強調したいと思います。

まとめ
化学者にとって、重要な物理化学特性データとしてのマススペクトルとは、信用できるデータのことです。

  • きちんと校正された装置で取得したかどうかあとから検証可能になっていること
  • 再現性をあとから検証するために、事実としてのスペクトルを多数集積されていること。

が大事であると思います。現在のMassBankがいいのは、一部データが冗長に収集されているため、上記のような検証が可能な点です。玉石混交であってもいろいろあることに事実として価値があります。
データの信用とは、理屈に合う合わないではなく、再現するかしないかのみにあります。どんなに理論に合わなくても、再現して観測されるシグナルがあれば、理論を修正するべきです。
事実としてのスペクトルのうち、現時点で最も信頼性が高いと考えられるものを指定することができます。しかし、将来的には間違いである可能性は排除できません。一方、「高品質」である。という主張は上記手続きとは関係がないため、化学者としてあまり関心がありません。

構造情報としてのマススペクトル

m/z値=>組成式を推定=>フラグメント構造に帰属する、という作業を実施する際に、精密質量電荷比データがあると、組成式の推定が容易(候補が減る)となります。MassBankにはOjimatrixという、組成式帰属情報が収集されており、宝物のようなデータとなっております。帰属結果からは部分構造に関する情報が読み取れる場合があります。ただしOjimatrixでもすべてのフラグメントイオンが帰属できたわけではなく、本当に正しいのかについては検証が常に行われ続けるべきであると思います。
m/z値から組成式を推定する際、m/z値と理論値とのずれをどこまで許容するか、という閾値を設定する必要があります。妥当な閾値は、精密質量電荷比の実測値のばらつきの標準偏差 S の2.5-3倍です(2倍では5%のシグナルでミスが生じると期待されます。)。したがって、構造情報として有用なマススペクトルの必須条件の1つは

  • 質量電荷比の実測値のばらつきの標準偏差が正確に既知であること

となります。現時点でこれを満たしているデータはMassBankにも1つもありません。
そのうえで

  • 閾値が1 - 5 ppm以内

であれば、プロダクトイオン、およびニュートラルロスの組成式を一意に推定できる可能性が増えます。ただこれは情報量が多く、便利なのであって、情報の質や信頼性とは関係がない点には注意が必要でしょう。ユニットマスのマススペクトルからでも有益な構造情報をえることは可能です。m/z値から組成式を推定が推定できると、誤差を含む数値データからおさらばして、記号化できます。
さらに、

  • フラグメントイオンが化学構造とユニークに関連づけることができるのに充分な数だけ観察されている≒できるだけ多くのプロダクトイオンが観察される

のも情報量が多く便利ではありますが、情報の質や信頼性とは関係がなく、分けて議論すべきだという点に注意を払うべきです。
できるだけ多くのプロダクトイオン情報を収集するという観点からは、コリジョン電圧を走査するRampモードでデータを取得する、とか、複数のスペクトルを合成するとか、MSnのイオンツリーとか、正規表現といった、いろいろな抽象化のアイデアが出てきます。物理化学特性データとしての事実としてのスペクトルではもはやありませんので、抽象化した「構造情報としてのスペクトル」として別に考えるべきでしょう。
たとえば、cDNA解析では同一mRNA由来のcDNAの冗長なリードから、mRNA全長配列の再構成がおこなわれました。サンガー法のエレクトロフェログラム(数値データ)から、ショートリードの配列(ATGC..)に記号化され、配列情報を再構成した仮想的、抽象的な全長配列が再構成されます。さらに配列情報の取り扱い方法が確立しており、信頼性評価が可能です。

これと同様に、複数の「物理化学特性データとしてのマススペクトル」から、組成式に記号化し、さらに再構成して抽象化した「構造情報としてのマススペクトル」を作成しようとしている。と考えることができます。
この場合は、「構造情報としてのマススペクトル」に含まれるフラグメントイオンの情報の信頼性は、できるだけ多くの「物理化学特性データとしてのマススペクトル」で再現性良く観測されること、に依存します。これを実現するには、「物理化学特性データとしてのマススペクトル」は冗長であることがとにかく重要です。
また、「構造情報としてのマススペクトル」の信頼性の評価法が必要です。この部分は現在研究段階にあり、研究を進めるには「物理化学特性データとしてのマススペクトル」がじゃぶじゃぶある。という状況を作るべきです。
現在のマススペクトルに関する誤謬の一つは、「物理化学特性データとしてのマススペクトル」の決定版が1つだけあり、そこからすべてが読み取れるというものです。GC-MSがそれにやや近いため生まれた誤謬であると思います。

他にも構造情報としてのスペクトルでは、

  • 帰属済みのシグナルのm/zは組成式で記述すべき
  • 構造情報としてのマススペクトルをどのように記述すればいいのか
  • スペクトルの分解能とでもいえる品質評価法がありえるのではないか

などの論点があります。またの機会に。

まとめ
構造情報としてのマススペクトルという観点から、広く公開されている情報は、MassBankのOjimatrixデータのみであるといえます。Ojimatrixデータの充実、信頼性の向上が、化合物同定のための品質向上につながります。一方、貴重なOjimatrixデータのうち、低品質なものを落とすとことにどれだけ意味があるのか不明ですが、もったいないというのが率直な感想です。
現状のOjimatrixデータは「物性情報としてのマススペクトル」を一部記号化した、注釈として位置づけられています。そこから抽象化の進んだ「構造情報としてのマススペクトル」はMassBankにはまた存在していません。存在しないものについて高品質であるかどうかは議論できません。また、信頼性=再現性=冗長性なので、現時点でできるとことは、データを収集、充実、整理していくこと以外にありません。

2017年7月16日日曜日

第158回 質量分析関西談話会

第158回 質量分析関西談話会 を下記の概要で実施します。

今回のテーマは

質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)&「かんたんMSの作り方」

をテーマに実施いたします。さらに今回は特別企画として、大阪大学の青木順先生よりMS自作派待望のご講演をいただけることになりました。 全国3000万の表面分析マニア、マス自作派、藤戸派の皆さんはもちろん多くの皆さんでお誘いあわせの上、ご参加のほどどうぞよろしくお願いします。


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第158回 質量分析関西談話会

日時:
2017年9月2日(土) 13時30分~17時55分(受付開始13時15分)
会場:
島津製作所関西支社マルチホール (会場定員60名)
大阪市北区芝田1-1-4
大阪梅田 阪急ターミナルビル14階
(JR大阪駅ホーム北側に隣接するビルです。阪急17番街のエレベータで14階までお越しください。)
電話06-6373-6522
交通アクセス:http://www.shimadzu.co.jp/aboutus/company/access/kansai.html
主題:
質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)&「かんたんMSの作り方」
 大変好評を頂きました「質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (I)(II)」に引き続き、今回は「質量分析機器メーカーの技術を学ぶ (III)」として、アルバック・ファイ株式会社、株式会社島津製作所様より、各メーカーの得意とする表面分析及び超臨界流体クロマトグラフィーについて原理から分かりやすくお話しいただきます。また、各技術を活用しておられるユーザー様からアプリケーション例をご紹介いただきます。さらに今回は特別企画として、大阪大学の青木順先生よりMS自作派待望のご講演をいただけることになりました。各講演の後半には製品や技術に対します質疑応答時間を十分に取っていますので、ぜひこの機会に日頃から抱いておられる疑問等をお持ちいただき、当会を十分に活用していただければと思います。
 多くの皆様のご参加をお待ちしております。
講演プログラム:
藤戸 由佳(株式会社島津製作所):「超臨界流体クロマトグラフと質量分析計の接続」
眞田 則明(アルバック・ファイ株式会社):「表面微小部分析を実現するイメージング質量分析法:TOF-SIMS」
特別企画
青木 順(大阪大学):「かんたんMSの作り方」
※ユーザー様からのアプリケーション例のご紹介も予定しています。詳細が決まり次第プログラムをアップデートいたします。

参加費:
無料
講演終了後、簡単な懇親会を予定しております。懇親会に参加される方は当日会場にてお志を集めさせていただきます。
参加申込み:
参加希望の方は、(1)氏名、(2)所属、(3)メールアドレス、(4)日本質量分析学会
会員/非会員の別を添えて、下記メールアドレスにお申し込みください。
kansai17_%_mssj.jp (送信の際は、_%_を@に変えてください)
関西談話会世話人代表 松田史生(大阪大学)
世話人:
川畑 慎一郎(島津製作所)、黒野 定 (和光純薬工業))、松田史生 (世話人代表、大阪大学)

Skylineの使い方その3 MRM系列の設定

MRM系列の設定

Skylineの「ターゲット」の各タンパク、ペプチドの横に+マークがあります。ここをクリックするを中身を見ることができます。ペプチドの下の階層が、プリカーサーイオンの階層です。428.2504++ というのが、非標識の2価のプリカーサーイオンという意味です。さらにその下の階層が、プロダクトイオンの階層です。D[y7]784.4563+と書いてあると、1価のy7のプロダクトイオンで、m/zは784.4563なんだなとわかります。

※2価のy系列が全体の85%、3価のy系列が10%、2,3価のb系列が残り5%くらいという印象です。3価とか、b系列が無視できないのが悩ましいところですね。



これらの設定ポイント1は「設定」=>「ペプチド設定」の「修飾」タブです。
構造修飾:還元アルキル化を行い、Cysを許容する場合はCarbamidomethyl(C)は必ずチェックします。
同位体標識:ここは利用する場合に該当するものを選びましょう。
あとはデフォルトでいいと思います。


設定ポイント2は「設定」=>「トランジション設定」です。このうち「予測」タブはこんな感じです。コリジョン関係の設定は島津の場合「衝突エネルギー化」だけでいいです。

「フィルタ」タブでは、採用するプリカーサーの電荷、プロダクトのイオンの電荷、イオンタイプが選べます。2価のyと3価のbだけを選ぶというような技は使えないようです。
「プロダクトイオン」はややこしいのですが、プロダクトイオンとして選ばれる下限と上限を設定しようとしていると考えるとわかりやすいです。このへんはいろいろいじってみてください。特別イオンはiTRAQ試薬とか使う場合に設定するみたいです。




「装置」タブでは、許容するm/zの範囲を最小、最大m/zでそれぞれ設定できます。それ以外の、動的最小プロダクトm/zが何かを意味しているのか、、、むつかしいですねぇ(笑)。よくわかりません。


メソッドの書き出し


メニューから「ファイル」=>「エクスポート」=>「トランジションリスト」を選ぶとMRMメソッドを各装置が読み込めるフォーマットで書き出せます。下記のようにするとコリジョン電圧を最適化し、全MRMを1つのファイルにまとめて書き出すことができます。共同研究者のみなさまはここまで行ったSkylineファイルと、書き出したファイルの両方をご送付いただけると幸いです。
作成したファイルはLabSolution上でLCメソッドと合体し、データを取得します。









Skylineの使い方その2 FASTAファイルからMRMメソッドの作成


MRMメソッドの作成


ターゲットタンパクを感度よく定量するためのMRMメソッドを作成します。ここでは、高速液体クロマトグラフ―三連四重極質量分析装置(LC-MS)の使用を前提に説明します。例として島津製作所製nanoLCとLCMS8060を使用する場合を説明します。Skylineは、島津製作所製LCMS80x0シリーズに対応済です(後述)。

MRMメソッドを作成するには、ターゲットタンパクのアミノ酸配列から

  1. LC-MSで感度よく検出できるトリプシン消化ペプチドを選抜
  2. 三連四重極質量分析装置(トリプルQ)で感度よく検出できるMRM系列を設定する必要があります。

注:コリジョン電圧等のフラグメンテーションのパラメーターはプリカーサーイオンのm/zに依存して設定します。Skylineが島津製作所製LCMS80x0シリーズに最適な値を自動的に設定してくれます。

ヒトであれば、すでに全タンパクについてMRMメソッドが作成済みですのでそれを使いましょう。一方、マニアックな生物でマニアックなタンパクが定量したい場合はMRMメソッドを自力で作成する必要があります。

例えば大腸菌 E. coli のPgkタンパクを測定するMRMメソッドを作成したいとします。


  1. 大腸菌 E. coli のPgkタンパクを含有している粗タンパク液をゲットする(精製したPgkタンパクとか、Pgkタンパクを過剰発現した大腸菌遺伝子組換え株の粗酵素液とか、Pgkタンパクが発現しているはずの大腸菌野生株の粗酵素液などを作成します)。
  2. トリプシン消化した、ペプチドサンプルを調製する。
  3. Pgkタンパクのアミノ酸配列から、すべての候補ペプチドを生成し、それらの全候補MRM系列を生成し、「MRMメソッド作成用のMRMメソッド」を生成する。
  4. 「MRMメソッド作成用のMRMメソッド」で「ペプチドサンプル」サンプルを分析する。
  5. 高強度で大腸菌のPgkタンパクを定量できるペプチドとMRM系列を選抜する。


という作業を行います。このうち3と5がSkylineの出番です。

FASTA形式のアミノ酸配列をコピペすればいい


まず、大腸菌 E. coli のPgkタンパクのアミノ酸配列のデータをFASTA形式でゲットしましょう。
http://www.uniprot.org/uniprot/P0A799

>sp|P0A799|PGK_ECOLI Phosphoglycerate kinase OS=Escherichia coli (strain K12) GN=pgk PE=1 SV=2
MSVIKMTDLDLAGKRVFIRADLNVPVKDGKVTSDARIRASLPTIELALKQGAKVMVTSHL
GRPTEGEYNEEFSLLPVVNYLKDKLSNPVRLVKDYLDGVDVAEGELVVLENVRFNKGEKK
DDETLSKKYAALCDVFVMDAFGTAHRAQASTHGIGKFADVACAGPLLAAELDALGKALKE
PARPMVAIVGGSKVSTKLTVLDSLSKIADQLIVGGGIANTFIAAQGHDVGKSLYEADLVD
EAKRLLTTCNIPVPSDVRVATEFSETAPATLKSVNDVKADEQILDIGDASAQELAEILKN
AKTILWNGPVGVFEFPNFRKGTEIVANAIADSEAFSIAGGGDTLAAIDLFGIADKISYIS
TGGGAFLEFVEGKVLPAVAMLEERAKK


FASTA形式のアミノ酸配列のデータをコピーし、Skylineの「ターゲット」領域内で「右クリック」=>「貼り付け」すると候補ペプチドのリストが生成します。
各ペプチドはK.MTDLDLAGK.R [5, 13]のように記載さていますが、これは5-13アミノ酸残基のペプチドMTDLDLAGKでN末端側の1つ隣の残基はKで、C末端側の1つ隣の残基はRという意味です。出てくるペプチドのリストは設定によって異なります。
また、右下に現在のタンパク数、ペプチド数、プリカーサー数、MRM系列数が表示されています。



まずはこれを読むべし


定量プロテオーム解析を志す方必携は下記論文です。プロテオーム解析の基本的な考え方、メソッド作成法、サンプル調製法の詳細が事細かに解説されています。プロテオーム解析をうまくやるコツは、まずはここに書いてある通りにやってみること。といっても過言ではありません。Open Access論文にしてくださって感謝であります。
Uchida, Y., Tachikawa, M., Obuchi, W., Hoshi, Y., Tomioka, Y., Ohtsuki, S., and Terasaki, T. (2013). A study protocol for quantitative targeted absolute proteomics (QTAP) by LC-MS/MS: application for inter-strain differences in protein expression levels of transporters, receptors, claudin-5, and marker proteins at the blood-brain barrier in ddY, FVB, and C57BL/6J mice. Fluids Barriers CNS 10, 21.


ペプチド設定


候補ペプチドを選ぶ基準を設定するのが、メニュー「設定」=>「ペプチド設定」です。
タブがたくさんありますが、このうち「消化」「フィルタ」タブが候補の選抜にかかわります。

「消化」タブでは、消化に用いる酵素が選べます。
酵素:通常はTrypsin[KR|P]でOKです。
最大ミス開裂数:許容するmiss cleavageの数を設定します。切れるはずのサイトで切れないmiss cleavageは定量プロテオミクスでは取り扱いが難しいので0にしておきましょう。
バックグラウンドプロテオーム:候補ペプチドが同生物種の他タンパクにも含まれていないかを確認するためのものです。動作がよくわからないので今回は使わずにおいておきます。




「フィルタ」タブでは下記を設定します
最小長:選択するペプチドの長さの最小です。この場合8残基以上のペプチドを利用します。
最大長:選択するペプチドの長さの最大です。この場合8残基以上のペプチドを利用します。
ターゲットプロテオーム解析ではおおよそ8-25残基程度のペプチドを選抜することが普通です。これより短いと特異性が下がり、これより長いとイオン化効率、クロマト上での挙動が悪くなることが増えるようです。一方、ペプチドの候補が少ないときは、この幅を広げて少しでも候補を増やしたりもします。
末端AAを排除:この長さだけ5’および3’末端領域を無視するという設定です。端っこは定量には向かないらしいのですが、いつも0にしています。
潜在的に不規則な終端を排除:よくわからないのでチェックなし
以下を含むペプチドを排除:Cys, Met, Hisなどを含むペプチドは酸化、イオン化効率が低いなどの理由で候補ペプチドに向かないといわれていますが。調べたところ、Cys, Met, Hisなどを含むペプチドもわりと普通にターゲットペプチドで使われているようですので、まずはフィルターをかけずに選抜し、候補が多すぎるときにはフィルターをかけて候補を減らす。というような使い方をしています。
すべての一致ペプチドを自動選抜:チェックと入れています。



このようにしてフィルターをペプチド設定を行うと下記のようになり、「ターゲット」のペプチド数が減っていました。






Skylineの使い方その1Skylineのインストール

Skylineとは定量プロテオーム解析用のメソッド作成、データ解析用ソフトウェアです。ワシントン大学MacCoss Labが開発し、無償で配布されています。Skylineの出来が良すぎるため、他の商用ソフトウェアが駆逐されつつあります。まずは、Skylineを使ってみましょう。Windows版オンリーです。

ダウンロード

“Skyline proteomics”でググってトップヒットする “Start Page: /home/software/Skyline - MacCoss Lab Software”に行きます。

https://skyline.ms/project/home/software/Skyline/begin.view

Download & Installから青いアイコンの、Skyline 19.1(2019.10.05の最新版、適宜アップデートあり。バージョン名の管理方法が最近変更になったようだ)をダウンロードしましょう。各自の環境に合わせて64bit, 32bit版が自動的に選ばれていますが。右端のPagesから好きなのを選べます。
メールアドレス、名前などの登録を行い、画面の指示に従ってダウンロード、インストールを進めていけばOKです。




メールアドレス、名前などの登録を行い画面の指示に従ってダウンロード、インストールを進めていけばOKです。登録しなくてもinstallできます。登録画面の下のほうに以下のような表記があります。

If you would like to continue without registering click here.↓

ここからはいってください。


起動

WindowsのスタートメニューにSkyline=>Skylineから起動できます。最近のバージョンでは起動時に「開始ページ」が表示されるようになり、最近使ったファイルとか、次の作業を選べるようになりました。まよわず「空のドキュメント」を選びましょう。




下記のような画面が出れば起動成功です。




※余談 また、「開始ページ」のチュートリアルタブには日本語のチュートリアルが多数ありますので、なにか疑問のある方はこちらをみましょう。






2017年7月2日日曜日

AIでオープンイノベーションにはビッグデータ自作


最近、「これAIでなんとなんない?オープンイノベーションとかできそうだし。」という真剣なお話をうかがうことがあります。

 AIにどんな質問に答えてほしいの?といえば、もちろん、どんな質問をしたらいいのか教えてくれるAIなんですが、もうすこしかみ砕くと、もうかる事業はなにかとか、運命のヒトにいつ会えるのかとか、Natureに載る研究テーマは何かとかを質問したいわけです。
 巷の議論では、古今東西のなんでも知っているスーパー物知りさんAI「聖徳太子?」「ホームズの相方?」が一人いて、その人に聞けばなんでも教えてくれる。というような構図がなんとなく垣間見られます。

この構図をすすめていくと
1.スーパー物知りさんAI「聖徳太子」を作る技術、データが特定企業に独占されているため、「聖徳太子」に質問する権利が高価である。

2.「聖徳太子」はみなに同じことを教えてくれるため、聖徳太子のお答えから圧倒的にあたらしいイノベーションor知財性が出るような気がしない。

3.そこで、「自分たちしか知らない知識データ」を「聖徳太子」にオプションで付けたくなるが、「聖徳太子」を作る技術を利用する権利も独占なため高価になる。


  • でもGoogleがそのうちタダで検索できる「聖徳太子」を作ってくれるはずなので心配しなくていい。


4.通常は、質問したくなる時というのは、なにか調べ物をしているときで、「何か」について調べているはずです。専門的なことを調べている場合、質問相手は「聖徳太子」である必要はなく、その道の専門家な小さいAIでよいかもしれない。

5.「専門家」に質問したい人は少ないので、AI作成は独自に行う必要があるだろう。

6.もし自分好みの「専門家」を作ることができて、質問にすごいいいお返事をしだした場合、その専門家AIが公開されることはないだろう。


  • 専門家AIを作成する技術はオープンになる可能性があるが、役に立つ専門家AIが表に出ることないかもしれない。
  • あるいは高価な専門家AIに質問する権利を販売する。というようなビジネスモデルがありえるかもしれない。


7.知識ベースのエキスパートシステムの場合、質問が形式化できるだろう。おそらく

  • ○○と××と△△の共通点あるいは黒幕は誰?(AKB48, NMB48, HKT48の共通点は?=>女性アイドルグループ、黒幕は秋元康)
  • ○○と××といえばなに?(NMB48で結婚といえば=>須藤など)

というものになると思われる。基本的にはバスケット解析?Word2Vecですな。

8.自分好みの「マイ専門家AI」が作れるかどうかは、教える知識に依存する。ここでいう知識とは、概念と概念との関係性とその強度を定義したグラフ(知識グラフ=ポンチ絵)のことらしい。で、そのグラフとは、テキストマイニングすればつくれるんじゃない?ということになっている。となると、

  • 自分たちしかもっていない知識や知見があること
  • それをテキストデータとして電子化し、アーカイブ化していること

が重要になる。さらに、

  • 報告書の要約に、「知識グラフ=ポンチ絵」そのものを書かせる。

とテキストマイニングをしなくて済むのだろうか?セマンティックWEB??

9.知識グラフを自動で作るために、テキストマイニングが必要なのであって、知識グラフそのものは手作業でキュレーションしたほうが精度が高くなりだろう。
となると

  • Cellの内容を知識グラフ化したデータを高精度にキュレーションしたもの
  • Wikipediaの知識を文章を知識グラフ化したデータを高精度にキュレーションしたもの

などは、「マイ専門家AI」を作成する際の、基礎コンポーネントになりえるため、高い価値があるかもしれない。

10.いずれにせよ、AIを作る使う技術の共通インフラ化が進み、「マイ専門家AI」を手軽に作れる時代がすぐ来るような気がする。となると、電子化した独自データの質、量で勝負が決するのは間違いない。またそういうデータは門外不出であるとおもわれるので、自力で作成するしかない。

というわけで、「これAIでなんとなんない?オープンイノベーションとかできそうだし。」というお話に対するコメントは


  • AIに質問したいことを形式化しておくべきだ。
  • AIを作る、使う技術は(すぐ)共通インフラ化するだろう。
  • その技術で作ったAIそのものはオープンにはたぶんならないので、自力で作る必要があり、それには、ビッグデータをお金で買うか、自前で集める必要がある。
  • ビッグデータをとる技術もオープンイノベーションの領域になるかも。
  • データは現場で生み出されるので、とにかく工場にあるありとあらゆるものにセンサーを付け、事務所、実験室の書類、ノートも電子化して記録して、取っておくことが今できる一番いいとりくみである。


ということで、ポイントとなるキーワードは「センサー」「記録魔」「ライフログ」となるみたいであります。ビッグデータの自作ですね。







2017年メタボロームシンポジウム若手会

※メタボロームシンポジウム若手会とはメタボロームシンポジウムに合わせて若手有志が実施している勉強会です。今年は松田が幹事のため宣伝させていただきます。

2017年メタボロームシンポジウム若手会開催告知


メタボロームシンポジウム若手会を今年も開催いたします。今年はメタボロームシンポジウム本会の前日午後にセミナー形式で実施します。メタボロミクス入門をテーマにサンプル調製、データ取得、データ解析の実際とコツを現役バリバリの研究者が解説します。また、参加者の皆様からの質問をもとに、基礎から応用にいたる様々な情報交換を行いたいと思います。メタボロミクスに関心のあるアカデミア、企業研究者にメーカーの皆様の参加を歓迎します。会場提供協力:(株)島津製作所

・概要
日時:2017年11月12日(日曜日)13:15~17:00
http://metabolo2017.kenkyuukai.jp/special/?id=23202
場所:島津製作所関西支社マルチホール
大阪市北区芝田1-1-4 大阪梅田 阪急ターミナルビル14階
(JR大阪駅ホーム北側に隣接するビルです。阪急17番街のエレベータで14階までお越しください。)
電話:06-6373-6522
交通アクセス:http://www.shimadzu.co.jp/aboutus/company/access/kansai.htm
参加費:一般2000円、学生無料を予定
定員:会場の都合上,定員50名までとさせて頂きます.
締切:10月20日(金)
※懇親会は同場所にて別途実費を徴収して実施します。
※当日の宿泊は各自手配ください。

・参加申し込み方法
大変お手数ではございますが,下記を,松田史生(fmatsuda (_at_)ist.osaka-u.ac.jp)までご連絡ください.

・ 件名「メタボロームシンポジウム若手会参加登録」
・ 氏名(漢字・ふりがな)
・ 電子メールアドレス
・ 所属機関
・ 役職(学生の場合は学年を記入して下さい)
・ メタボロミクスに関する質問を2つ以上(勉強会ですので☆必ず☆ご記入ください。)


・プログラム(予定)
13:00 受付開始
13:15 自己紹介
13:30 プロトコル解説 サンプル調製 講師:及川彰(山形大、理研)
14:15 プロトコル解説 データ取得 講師:平山 明由(慶応大)
15:00 休憩
15:15 プロトコル解説 データ解析 講師:三枝大輔(東北大)
16:00 企業紹介
16:40 終了

・懇親会(別途実費を徴収)
17:00 追加Q&Aコーナー
サンプル調製、データ取得、データ解析についてイケメン識者に質問しよう。
【識者】池田和貴(理研)、和泉自泰(九州大)、及川彰(山形大、理研)、三枝大輔(東北大)、津川裕司(理研)、平山 明由(慶応大)

20:00 終了予定


・ESI友の会より連絡

皆様,ESI友の会のサイトをご存知でしょうか?
https://sites.google.com/site/esitomonokai/

このサイトに公開されている「プロトコール集」,もしくは「解析部屋」にて,
1.もっと詳しく説明してほしい
2.掲載がないものの,疑問に思っている問題があるので,公開してほしい
などがありましたら,hiroshi.tsugawa(at)riken.jpまで,件名を「ESI友の会管理人様へ」としてご連絡ください.当日の発表内容に加えたいと考えております.お気軽に,お申し付け下さい.

第4回メタボロームシンポジウム若手会幹事
松田史生(大阪大学)

2017年4月16日日曜日

応仁の乱

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書) 呉座 勇一 著を読んだ。歴史については疎いとしか言えず、ときどき、網野善彦「日本社会の歴史」 (岩波新書) を読み返すたびに、日本の歴史は兄弟げんかあるいは権力の分裂に尽きると感じてしまうくらいだけなので、室町期奈良が興福寺が事実上の守護だったとか、応仁の乱によって管領を中心とする有力守護の合議制という政治システムが崩れて、守護が在京する理由を失い、さらに各国でももめ事が増えたため、実力主義の戦国大名が出現するきっかけとなった。という本書最大の読みどころをとても楽しく読んだ。また、通史である「日本社会の歴史」では、応仁の乱以前の義満の専制的な政治により、天皇家の分裂抗争が一旦収束し、さらに、義満が治天となって征夷大将軍と天皇の権威が再び一体になりかけたあと、管領が主導する守護の合議制による安定した政治が軌道に乗った時期であり、その後、義教、義政が将軍の権威復活に向けて守護の権力を削ぐために家督争い(兄弟げんか)に介入した結果、権力が分裂していく過程の出来事として、応仁の乱はわずか2ページで通過していくのであるが、その背景にあるややこしい政治史の解説としても本書は大変すばらしい。
 一方、これは私の勉強不足のためですが、本書で解説された「興福寺は大和国守護職として権限を行使する権力と実力を持っていた。その長である興福寺別当は、一乗院門跡および大乗院門跡の門主が交代で務めていた。両門主は摂関家、皇族の子息が代々務めた」背景にある、ポストとカネをめぐる権力の構造については、よくわからなかった。カネについては、荘園支配の仕組みと、課税権のありかが複雑すぎてがよくわからず、いったいどこからどれくらいどのようなしくみと根拠でで税を毎年得ていたのか?なにどれくらいお金がかかっていたのあ?ポストについても、当時「天皇と貴族の権威は地に落ちた」という解説と、「興福寺は大和国守護職として権限を行使するうんうぬん」にあたり、筒井氏、越智氏などの有力者が、なぜ興福寺のいうことを聞いたのか?という話の間にあんまり整合性がないような気がする。信長の野望全国版で大和といえば、筒井順慶なんですが、そのWikiページをみても、少なくとも1550年くらいまでは、守護がいないとあるので、おそらく、摂関家や興福寺はそれなりの荘園を奈良に有しており、そこの徴税権、警察権、裁判権その他の利害を通じて有力者との折り合いがついていたということなんだとおもうが、よくわからない。ポストとカネという観点からは「院政とは何だったか」(PHP新書) 岡野 友彦 著(上皇の権力基盤をクリアに説明した膝ポンものの名著)のような制度立ち上げ期の解説は見かけるが、天皇、貴族が応仁の乱後、没落しつつも権威と経済基盤を維持しながら戦国の動乱期にどのように生き延びたかという話は、今後の日本の行く末を考えるうえで非常に参考になる話だと思うので、興味津々なのであります。



2017年3月2日木曜日

ターゲットプロテオーム解析をはじめるノウハウ

日本プロテオーム学会会誌に大変僭越ながら「ターゲットプロテオーム解析をはじめるノウハウ」という一文を寄稿しました。ターゲットプロテオミクスはいま非常にお買い得な技術だと思いますので、みなさまの研究にお役に立てば幸いです。

2017年2月28日火曜日

出芽酵母中心代謝ターゲットプロテオミクス

中心代謝制御メカニズムの解明を目指しています。代謝物を測定するメタボローム分析や、代謝の流れを測定する代謝フラックス解析も大事なのですが、代謝反応を触媒する酵素タンパク量の定量データも負けず劣らず重要です。細胞内代謝の流れを変えたいとき、酵母は、酵素の発現量の調節、あるいは翻訳後修飾の調節を通じてそれを実現しているはずですが、実際のところどうなっているのか、わかっていません。
そこで、出芽酵母をつかって調べてみました。

Matsuda F, Kinoshita S, Nishino S, Tomita A, Shimizu H (2017) Targeted proteome analysis of single-gene deletion strains of Saccharomyces cerevisiae lacking enzymes in the central carbon metabolism. PLoS ONE 12(2): e0172742. 

中心代謝酵素遺伝子が欠損するとその機能を埋め合わせるために、他の酵素発現量も変わるはずです。そこで、出芽酵母中心代謝酵素遺伝子欠損株30株を選んで、対数増殖期の酵素発現プロファイルを定量プロテオーム法で調べました。
定量プロテオーム法というのは、事前に決めたターゲットタンパク質の発現量を液体クロマトグラフ―トリプル四重極型質量分析装置で測定する手法です。今回は、110酵素の発現量が測定できました。その結果から、下記のような仮説が検証できます。

仮説1秘孔説:全体の代謝フラックス分布を制御する秘孔のような反応があり、その発現量制御が効いている。
生化学の教科書を見ると、解糖系はヘキソキナーゼ。、ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼのギブス自由エネルギー変化ΔGが大きく、とくにホスホフルクトキナーゼが律速点あるいは秘孔。あとは、ΔGがゼロに近いから、制御には関係なし。と書いてあります。が、1遺伝子破壊株ではさすがに、いろんな酵素の発現量が増えたり減ったりする傾向がありました。また、ホスホフルクトキナーゼの発現量変化と増殖などに全然相関がなく(論文では述べてませんが)、仮説1は違うみたいです。
また、同じ機能を持つ酵素(アイソザイム)が2種類以上あって1つだめでももう1つが発現して、機能補完しているという話もあります。調べてみると一つHxk1がhxk2Δ株で、 Idh2がidh1Δ株で、Tkl2がtkl1Δ株で、Pdc5がpdc1Δ株で特定敵に発現していました。なぜこの酵素群にはこういう制御がいるのか、がよくわかりません。
また、一部の変異株では、なぜかわからないけど特定の酵素が強発現する例、というのが見つかりました。Kgd1の発現はhxk2Δ株で例外的に増加しました。がその理由は謎です。

仮説2一括制御説:複数の酵素発現量が一括して増減する協調制御がある。
10年前くらいのマイクロアレイ全盛期に、マイクロアレイデータをかき集めて、遺伝子発現の相関ネットワークを作ると、解糖系酵素遺伝子が共発現モジュールになる。というような話がありました。30株のデータで酵素タンパク発現量の相関ネットワークを作ると、
・Gcr1/2p配下の解糖系酵素群
・Msn2/4p配下のトレハロース代謝系酵素群
がモジュールを形成していました。全体の変動の3割くらいがこれで説明できました。

仮説3翻訳後修飾説:発現量は些末な問題で、むしろ翻訳後修飾が重要。
これは調べていないのでよくわかりませんが、酵素発現量も大きく変化していたことから、発現量の制御が些末である。という証拠は今のところありません。

仮説4リソース限界説:酵素発現量を決めるのは、タンパク合成に使えるリソースが律速になっている。
中心代謝酵素は発現量が非常に多いことでしられています。これは解糖系のように代謝フラックスが非常に大きい経路で、可逆反応が平衡に達するためには大量の酵素触媒が必要だからである。と言われています。そこで、各酵素タンパク質の発現コピー数の文献データもとに見積もると
・1遺伝子欠損株では、酵素タンパク総量が増加する=>余分なリソースを利用して欠損遺伝子の機能を補おうとしている。
・が、増えるといっても1割強くらいまで=>使えるリソースが無限あるわけではない。限られたリソースをやりくりしつつ、代謝恒常性の維持に割り振っている様子が垣間見られました。

メタボロ研究者がプロテオをやってみた。という事実上のプロテオミクスデビュー論文であります。いろいろ酵素発現量が変化することが見れて非常に楽しく研究できたのですが、酵素発現量変化が代謝フラックスなど他のパフォーマンスにどのように寄与するのかまでは、全く手が届きませんでした。調べれば調べるほど謎が出てくるので、中心代謝にメロメロです。
なんだか、これまた謎の論文を書いてしまったと思うところ多数でありますが、今後はプロテオミクスを加味したトランスオミクス的アプローチで中心代謝の謎に迫っていきたいと思います。


また本研究では、島津製作所製ナノLCMS+トリプル四重極型LC-MS/MSのLCMS-8040が大活躍しました。特に、LCMS-8040の高速スキャン性能(300 ch/secは十分使える)がターゲットプロテオミクスを進めるにあたって、非常に有効でした。また、カラムはCERI、イオン源はAMR社製、スプレーヤーはFortis tipとオールジャパンの装置の優れた性能のおかげで十分世界と戦えるデータを出せたと、みなみなさまに感謝する次第であります。


本研究はひとえに当時技術補佐員だった富田淳美さんのスーパーテクニックによるものであります。また、定量プロテオミクス解析を実施するにあたって島津製作所の平野一郎様、小倉泰郎様から多大なるご支援いただきました。また、東大の黒田研の皆さまからは様々なご助言をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。



2017年1月31日火曜日

非ODSミクロナノLCカラム

思うところがあって調べてみた。

ABSciex 

http://sciex.jp/Documents/brochures/microNano_columnspart-list.pdf
cHiPLC column, 2.7 μm, HALO Fused-Core HILIC, 90A, 15 cm x 75 μm

Advanced-materials-tech

http://www.advanced-materials-tech.com/

HALO

ミクロなら
C18, C8, phenylhexyl, PFP, ESCN RP-amide, HILIC Penta-HILICのうち
PFPナノカラム有
98218-609 2.7μm 90A HALO PFP 0.1mm x 100mm
ガードカラムも有
92812-109 2.7μm 90A HALO PFP 2.1mm x 5mm Guard Column
92813-109 2.7μm 90A HALO PFP 3.0mm x 5mm Guard Column
92814-109 2.7μm 90A HALO PFP 4.6mm x 5mm Guard Column
イケる!

CERI

http://www.cerij.or.jp/service/09_chromatography/L-column_01.html
L-column
L-column2 ODS C8 C6-phenyl ならミクロLC,ナノLC有り。


Shimadzu GLC

Mastro
433-23210 Mastro PFP 100 2.1 3
426-75210 Mastro SP 100 2.1 5

カラムサイズのバリエーションが広がり、ガードカラムがあるとうれしい。


TCI東京化成

http://www.tcichemicals.com/ja/jp/product/chromatography/hplc/primsep.html
mix mode ナノカラム有り

SIELC社製品の代理店
http://www.sielc.com/
0.5 mm, 1.0 mm, 2.0 mm
http://www.sielc.com/wp-content/uploads/2015/11/SIELC_Obelisc_Intro.pdf
サイズは何でもあり。

ミックスモード(ODS+イオン交換)カラム TCI Dual / Kaseisorb LC
http://www.tcichemicals.com/ja/jp/product/chromatography/hplc/mgonoc000000saqi-att/TCI_Dual_Technical_Information_jp.pdf

※上記以外のカラムサイズも対応いたしますので,お問い合わせ下さい。
とあるので聞いてみる価値あり。

SGE

Protecol PFP
mix modeなし
C4, C18のみ
内径0.15, 0.3から選べる
PEELコートもいける 
ProteCol PFP  02, 03, 46、SPもあり。PEEKコートのPFP有り

以降調査中、選択肢が増えるといいな



古代史

デスクトップにこういうファイルが落ちていたので、こちらにコピペして消去。
やっぱ五世紀の倭の五王の時代が謎ですな。

紀元前
221 秦成立
202 漢成立
0
107 後漢書 和国王が奴隷を貢献
2世紀後半 倭国大乱
3世紀 魏志倭人伝
238 なしめ朝献
243 卑弥呼朝献
247 狗奴国の乱
265 晋成立倭王使いを送る
367 百済倭に使いを送る
372 七枝刀をおくる。奈良石上神社
389 讃 即位? 応神帝 宇佐出身の豪族の出身、敦賀に移住した
402 新羅倭に使いを送る
5世紀 河内巨大古墳
413 倭王東晋に使いを送る
421 倭王讃が宗に貢ぎ物
438 倭王珍が宗に貢ぎ物
443 倭王済が宗に貢ぎ物
451 倭王済が宗に貢ぎ物
462 倭王興が宗に貢ぎ物
463 吉備の乱 雄略帝による瀬戸内海啓開
478 倭王武の上表分
479 武へ倭王の称号
このころ 大型古墳衰退
502 倭王の称号、日本海交易ネットワーク=蘇我海運
6世紀 オホド王(継体)が越の国から現れる、即位の19年後都に入った、継体天皇=湖北出身の鉄鋼大財閥当主、九州倭国唐受け継いだ日本海海運業
6世紀 畿内の馬による輸送を開始
527 磐井の乱物部氏による制圧
553 欽明天皇蘇我稲目軍船建造命令に朝鮮出兵
562 欽明天皇朝鮮出兵
570 高句麗越の地を通じて倭国に使いを送る
587 丁未の役、物部氏滅亡瀬戸内海利権の覇権争い
618 唐成立
645 乙巳の変、蘇我滅亡 新羅派vs百済派の覇権争い
660 百済滅亡