2018年12月31日月曜日

視線のありか

今年最大の衝撃といえば出張中にYouTubeでみつけた「松田聖子・松たか子、名曲「赤いスイートピー」を歌う アスタリフトCMスペシャルムービー」だった。新幹線の中とかでスマホのパケット上限までくりかえし思わず見てしまうのは松たか子ファン歴20年以上なんだから仕方がないとして、このムービー、「赤いスイトピー」をワンフレーズ歌う松田聖子と、松たか子のバストショットの続けて見ることができる。2人を見比べると、視線のありかがとても気になってしまう。もちろんこのような映像の場合、カメラの視線=聴き手(見てる人)の視線と考えていい。聴き手の目の前で、松田聖子、松たか子が赤いスイトピーを歌っている。という設定だろう。松田聖子と松たか子は、目の前にいる聴き手に向かって歌っている。こちらから見ていること、見られていることを知っていることになる。だから、この映像に映っているのは、そういう状況の中で歌い手はどこを見ながら歌うのか。それによって何を目指しているか、聴き手にどのような印象を与えようとしてるのか、という問題に対する、とても対照的な回答である。
松田聖子は画面の左半分に陣取り、こちらから見て左のほうを向いている。視線も聴き手からみて左後ろの何かを見ている(しかし何を見ているんだろう?)。歌いながら4-5回カメラ(聴き手)に視線を合わせるが、それも時間全体の2-3割しかない。なので、印象として残るのは、視線がこちらから外される瞬間の所作だろう(視線が合っている状態からふっと目を閉じて下を向き、視線を上げた時には、左後ろを見ている)。松田聖子がこのような所作をする理由といえばもちろん、左前から見た自分の表情が一番ぐっとくると思っている、というのが一つ目。追いかけてほしかったら、逃げてみせる。というのが駆け引きの基本だからというのが二つ目。さらに、視線を外す、斜め上を見るのは、私の中に内面があることを見せかける型だから(日本舞踊や、演歌の歌い手のしぐさをみても明らかだよね)というのが3つ目。したがって、松田聖子のしぐさが目指しているのは、私の中に隠されている内面を探しに来て。という勧誘である。聴き手がこの誘いに乗り、歌い手の間で「かくれんぼ」を始めてしまえば、あとは、怒涛の解釈が始まる。歌い手の一つ一つのしぐさや表情や視線を、聴き手は深読み、裏読みし、その内容に一喜一憂する。歌い手に内面があってもなくても聴き手が勝手に誤解してくれる。のだから、もっといってしまうと、歌い手は自分の内面がないことを隠すために、内面があるふりをしている。ともいえるだろう。また、この関係は歌い手にも、聴き手にも楽だ。歌い手は「かくれんぼ」の鬼として基本的には隠れていればいいのだし、聴き手は鬼を探す、あるいは謎を解く探偵役として2人の関係性のイニシアチブをとっている気になれる。そんなことが全部分かったうえで、嬉々として深読みに燃えるのが普通はいい聴き手なんだろう。
一方、松たか子というと画面のほぼ中央にいて、全体の7割くらいはこっちをじっと見ている。ときどき視線を右下に外すことはあるけど、サビの部分では歌いながらずっとカメラ(聴き手)に視線を合わせている。とくに、いったん視線を下に落としたあと、また、聴き手に視線をぐっと合わせるという技を繰り出している。松田聖子のやっていた「かくれんぼ」の要素が全然ないのだ。さらに、聴き手は松たか子に視線を外す、斜め上を見るというような所作をする技術がないわけではもちろんない(なにしろ日本舞踊松本流名取、初代松本幸華でもあるわけだから)ことも知っている。となると、聴き手はこう考えることになる。松たか子は、聴き手と「かくれんぼ」をする気がそもそもない。したがって隠すことによってのみ存在できる内面、のようなものを見せたいわけではない。聴き手であるわれわれは、松たか子の表情や視線の意味を深読み、裏読みすることを禁じられてしまう。じゃあ、松たか子は何を聴き手に見せようとしているのか?それがぜんぜんわからない。すいません。と聴き手は感じてしまうことになる。松たか子の歌う姿を見ていると、聴き手は歌い手の謎を解く探偵役としてイニシアチブをとる、という幻想を持つことを許してはくれず、さらに、そういう駆け引き抜きで「本当の」松たか子がいるんだなと楽観することも、もちろんできはしないんだなっていうことがひしひしとわかる。一言でいうとものすごく居心地が悪いんだけど、目を離すことができない(松たか子が最近演じる役柄の共通性も、ある意味必然とでもいえるのかもしれない)。
このような謎を見せられてしまうと、20年などあっという間に立ってしまうから不思議だ。


2018年11月9日金曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら4

バイオ分析では、細胞内の内因性代謝中間体の同定と、定量を目指します。内因性代謝中間体の特徴は、親水性が高い点です。アミンだったり有機酸だったりと溶液中でイオン化するアニオン性やカチオン性化合物のオンパレードであります。もともとHPLCに使うカラムは親水性相互作用を使った、順相系のものが使われていましたが、耐久性、再現性に問題を抱えていたそうです。一方、LC-MSの発展を強力に推し進めた薬物動態分野では、薬物や薬物代謝物など、比較的疎水性の高い化合物が分析対象だったこともあり、オクタドデシルシリル基(ODS)でシリカゲル表面を修飾した逆相系のカラムが好んで利用され、塩基性薬剤をシャープに分離できるカラムの開発競争が起きて、ものすごく高性能なカラムが現在市販されるようになりました。また、逆相系は高い耐久性、再現性があり、分析屋さんもこよなくODSカラムを愛してきました。一方、内因性代謝中間体は、逆相系のカラムで分離するには、疎水性が低すぎました。そこで、10年ほど前から、逆逆相とか、HILICという順相っぽいカラムが登場しています。が、どこかのシンポジウムで、「昔あんなに順相がイヤで、逆相に移行したのに、いまさらまた、順相を引っ張り出してくるってどういうこと?」というコメントを聞いたことがありますが、それくらい、逆相系への信頼があつい。のだと思います。

また、内因性代謝中間体には構造異性体が多く、ロイシンとイソロイシンとか、グルコース 6-リン酸、グルコース 1-リン酸とフルクトース 6-リン酸などの糖リン酸ように構造はそっくり。しかも重要な代謝物なので、しっかりと分離しないと分析として使い物にならない。という課題があります。そこで、HILICカラムを使って分離を試みても、標準化合物混合物ではうまく分離できたが、実試料ではピーク形状の悪化がおき、うまく分離できない。と事態が起きます。そうすると、HILICカラムの抱える耐久性、再現性の問題点に対してそれほどメリットがない。ということで、大きなブレークスルーには至っていません。

次に、逆相系カラムをいじって、内因性代謝中間体を保持できないか。というアイデアが出てきます。特にペンタプルオロフェニルペンチル(PFPP)基を導入したカラムで、内因性代謝中間体、特にアミノ酸が保持、分離できる。というのは大きな発見でした(確か味の素の方が12年くらい前に発見されたと思います)。フッ素が5個結合したベンゼン環とカチオン性内因性代謝中間体がどのように相互作用しているのかは謎ですが(π―π相互作用?)、そこそこの堅牢性のあるこのカラムの利用は着実に広がっており、今後のバイオ分析を支える重要技術となっていくと期待されます。あとは、PFPPカラムの需要が高まり、開発競争が起きて、どんどん性能が良くなる。という、勝ちパターンにつながるといいなぁとおもいます。

次なるアイデアとして、ODSに親水性の官能基を導入し、疎水性相互作用と、親水性相互作用の両方で化合物を分離するミックスモードといわれるカラムが開発されました。京都の雄、インタクトが販売しているアミノ酸分析用のカラムは、ロイシンとイソロイシンをばっちり分離し、LC-MSにもつなげるカラムとして、ミックスモードの可能性を示しています。一方、どの官能基をどういうふうに導入すると、糖リン酸をうまく分離できるのかはまだ、わかっていないようです。世のクロマトグラファーの挑戦が待たれます。

次に、移動相をいじることで、内因性代謝中間体の保持、分離の向上を狙うドーピング系のアプローチもあります。たとえは、移動相にEDTAを添加すると、サンプル中、カラム表面の金属イオンとキレートを形成するため、アニオン性の化合物のピーク形状が一気に改善した。というエーザイの小田さんらの報告は(Myint et al. Anal Chem 81(18):7766-7772)、まだまだ、改善の余地があることを示した。ということで画期的でした。ただ、EDTAの添加はLC-MSとの相性が良くありません。同様のアプローチとして、揮発性のacetylacetoneをキレート剤に用いる方法も出てきていますが(Siegel et al. J Chromatogr A 1294:87-97 )効果が微妙なようです。

さらに、メタノール/水/酢酸系に、トリブチルアミンをイオンペア剤として追加し、ODSカラムを使ってアニオン性の糖リン酸を分離する。という手法も登場しました。この方法は、グルコース 6-リン酸、グルコース 1-リン酸とフルクトース 6-リン酸をしっかり分離できるわけではないが、実試料を分析した時の破綻が少ない。ATP、ADP等の多価のアニモンも同時分析可能。ODSカラムの堅牢性を生かせる。等のメリットがある一方、トリブチルアミンは一度使うと洗浄できないので、他のメソッドとの共存がむつかしいという強烈な欠点もあります。われわれは、糖リン酸が測れないとお話にならない。という点と、ラボに古くなって使われなくなった、他の手法との共存を考えなくていいトリプル四重極のLC-MSがたまたまあった。という理由で、トリブチルアミンを使った方法をつかっていますが、だれにでもお勧めできるというものではありません。

また、糖リン酸を抽出後、化学的に誘導体化して分析する。というアプローチもあります。調べた限り、この方法とHPLCでの分離を組み合わせた例はないようですが(あったら教えて、、、)、最近われわれは、糖リン酸類を化学的に誘導体化後、「ガスクロマトグラフィー」で分離できることを示しました。GCやるな。とおもいます。

いずれにせよ、細胞内の内因性代謝中間体を気分よく、分離する技術はまだまだ発展途上です。最近は、薬物動態分野に向けた開発が一段落したようなので、これからは、バイオ分析に注力したカラムの開発、分離法の開発が進むことが期待されます。


2018年11月2日金曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら3

3.ミクロLCだ!

バイオ分析では微量成分を定量したいので、常に高感度化が課題です。感度に余裕があれは、必要なサンプル量が減らせる。並行して測定できる代謝物が増やせるなど、分析法全体が「ラク」になります。
検出器での感度向上はいい装置を買えばいい。という「お金」の話がほとんどですが、HPLCでの高感度化には知恵でなんとななる部分がだいぶあります。
HPLCの教科書には、カラムを細く(内径を小さく)すると感度が向上すると書いてあります。
100 * 4.6 mmのカラム+1.0ml/minの流量
100 * 2 mmのカラム+0.2ml/minの流量
の2条件で、同量のサンプルを分析し、ある成分が12秒のピーク幅で観測された場合、同じ量の成分が0.2mLあるいは、0.04mLの液相に溶けていたことになります。濃度は後者のほうが5倍高いので、感度が5倍、という理屈です。

ただ、これまでのHPLCとくにLC-MSの構成は薬物動態分野のニーズが色濃く反映していました。
・微量といっても薬物代謝物なので、割とあるからそれほど感度は大事じゃない。
・サンプル数が多いので、ハイスループット分析がしたい。
・セミミクロスケールの内径 2 mmの短めのカラムにサブ2ミクロンの固相を詰めたものを用い、液相を0.2-1.0ml/minくらいの流量に設定するのがいいバランス。流量を上げることでハイスループットな分析に対応できた。
・1.0ml/minくらいまでの流量であれは、ESIのイオン源の進化(ネビュライザガス+超高温の熱風を吹き付けて、蒸発促進)で対応できた。
・セミミクロスケールで要求されるデッドボリュームはそれほど厳しくなく、オートサンプラ等の構成が容易だった。
・ミクロスケール(カラムの内径が0.2 - 0.5mm、 2 - 50microL/minくらい)になると、ミキサー、オートサンプラ、ESIイオン源等をすべて再検討する必要があるが、そこまでして高感度を狙う理由がなかった。
・セミミクロスケールがいい感じ。

また、ナノLC-MSの構成はプロテオミクスのニーズが色濃く反映していました。

・サンプルが微量な場合が多く、より多くMS/MSデータを取得するためには、感度だけが大事だ。
・サンプル数はそれほど多くないので、スループットはあまり気にしない。
・ナノスケールの内径 0.075-0.1 mmの長めのカラムに3-5ミクロンの固相を詰めたものを用い、液相を100-400 nl/minくらいの流量に設定する。のがいいバランス。
・この領域だど、ネビュライザガスなしでESIのイオン化が可能だ。また、あきらかにセミミクロスケールより感度が向上する。
・流量が少ないので、高性能なシリンジポンプのポンプを用いることができた。ミキサーは不要で、ESIイオン源はむき出しで使うことで解決できた。また、ナノLCはどうしても動作が遅く、1分析の時間を短くするのがむつかしい(最低でも40-50分という感じ)が、スループットはあまり気にしないのでなんとかなった。
・ナノスケールがいい感じ。

一方、バイオ分析はわがままな分析です。
・微量の生体成分が測定したいので、感度は大事だ
・サンプル数もわりと多いので、ハイスループット分析がしたい。15-20分くらいのグラジエント分析を回したい。

ので、セミミクロスケールの分析の延長、次のステップとしてのミクロスケールにどうしても興味が出てきます。

これを実現するには

1.ミクロLC でバイオイナート化したもの
2.ミクロLC 用の内径が0.2 - 0.5mmくらいのカラムでバイオイナート化したもの
3.ミクロLC 用に最適化されたESIイオン源

が必要です。ミクロLCはアジレントが昔からラインアップに載せていたりしてあるにはありました。最近になって島津製作所がミクロLCとミクロLC用に最適化されたESIイオン源売り出すなど、いよいよミクロへの移行が実現化しそうです。ミクロLC=バイオ分析用と考えるなら、バイオイナート化が喫緊の課題です。また、ミクロLCはカラムのバリエーションが極端に少なく、これはまだ解決していません。ただSGEなど、もともと受注生産的なメーカーは、いろいろなミクロLC用カラムが使えそうですが、それでも、バイオイナートなカラムは、まだないようです。ミクロLC=バイオ分析用=バイオイナートが標準。
という夢のような時代が早く来るといいな。と思います。

一方、ミクロLCによる感度の向上がどのくらいあるのかははっきりしません。特に注意すべきは、上述の感度向上のロジックはUV検出器などで測定する「濃度」の話だという点です。導入するサンプル量が同じであれは、ミクロスケールでもセミミクロスケールでもMSのイオン源に入ってくる測定対象成分のモル数は同じになります。なので、イオン化効率が100%だったらミクロスケールでもセミミクロスケールでも同じレスポンスが得られるはずです。セミミクロスケールからナノスケールにスケールダウンしても、理論値通りの感度向上にはならないことはよく知られています(理論的には200-500倍くらい上昇するはずが、実際は数十倍だったりする)。ミクロスケールへの移行での感度の向上はほとんどないか、10倍程度くらいになると考えるのが妥当でしょうか(島津のミクロLCを試した先生によると実際に感度は向上したそうです)。
いずれにせよ、ミクロLCが、バイオ分析のフロンティアであることは間違いないでしょう。あと、内径4.6mmと2mmの間に3mmという時代があったように、2mmと0.5mmの間の1mmがブレークしたりしたら楽しい時代になりますね。


2018年10月26日金曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら2

2.トラップカラム再興

バイオ分析では、いろいろな成分をふくんだぐちゃっとした試料を取り扱います。事前に、不要な塩、金属イオンや、高分子など極力除く努力が行われますが、なかなか完璧にはできず、めんどくさいなぁとおもいます。このぐちゃっとした試料をHPLC装置に供すると、不要な塩、金属イオンや、高分子などがカラムを通過します。その時に、変な相互作用のせいで、これらの金属イオンや、高分子などが固相の表面にくっつきます。カラムが汚れた状態となるわけです。一応、各分析毎に汚れを除くために溶出力の強い液相を流す「洗い」を行いますが、完ぺきにはきれいになりません。固相の表面が、金属イオンで汚れると、イオン性の化合物の分離が悪化します。とくに2価のカチオンのMg2+のせいで、アニオン性化合物、特にATPやαケト酸のピーク形状が悪化しているようです。ATPやαケト酸は、生体成分として最も重要なものであり、何とかしなくてはなりません。
そこで、オンラインでの固相抽出というイメージで、トラップカラムを再興したいものです。
・グラジエント溶出が大前提。
・トラップカラムに試料をトラップ。脱塩。
・バルブを切り替えて、グラジエント溶出を開始、トラップカラムにトラップされたサンプルが順次本カラムへ溶出されていく。
・分析対象の溶出が終わったら、バルブを切り替える。トラップカラムと本カラムを別個に洗浄する。
・トラップカラムと本カラムを開始状態にコンディショニング。

これにより、本カラムに汚れのもとが通過するのと最低限にできます。

トラップカラムをもちいたバイオ分析を実現するには、
1.バイオイナート仕様のトラップカラム、ガードホルダー。後述するように、ミクロLCを目指すので、サイズは内径1.0mm, 2.0mmくらいのバリエーションが欲しい。
2.トラップカラムにもPFPPなどの多様なケミストリー
3.本カラム用の2液高圧グラジエント用ポンプと、トラップカラム用のポンプ2液分。
4.低デッドボリュームのバルブ

が必要ですね。3.4.お金で解決しますが、1.2.は、カラム屋さんに作ってもらわなくてはなりません。

また、トラップカラムには、いい面と悪い面があります。
Pros セミミクロスケールでの利用を前提に作られたオートインジェクタと、ミクロスケール、ナノスケールの本カラムの間のつなぐ役割ができます。本カラムが汚れにくくなります。
Cons システムが複雑になり、トラブルの原因が増えます。またどうしてもトラップ時に測定対象化合物もロスしてしまうため、トラップカラムが大嫌い。というひとも世の中には多いです。

とくに低分子のバイオ分析では、「本カラムが汚れにくくなる」ご利益が、欠点を大幅に凌駕する可能性があります。チャレンジする価値はあるでしょう。


2018年10月21日日曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら1

HPLCとは高速液体クロマトグラフィー High performance liquid chromatographyのことです。バイオ分析では、生体中代謝物を抽出してサンプルを作ります。HPLCはサンプル中の個々の代謝物の分離を担当します。代謝物を分離すると、個々の代謝物の定量が容易になります。HPLCでは、個体の粒子(固相)を詰めたカラム(管)に、溶媒(液相)に溶けた試料を流します。すると、固相との相互作用の弱い化合物は早くカラムから流出し、相互作用の強い化合物は遅くカラムから流出します。これにより、化合物を分離することができます。HPLCが今後もバイオ分析の中核を担う分離技術であることは明らかです。ので、もし、生体成分分析専用HPLCがあったら、妄想してみました。

1.なにはともあれバイオイナート

HPLCは液相が触れる部分はおおよそ
・ステンレス鋼材(SUS)の部品、配管
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の配管
でできています。このうち、ステンレス鋼材にはアニオン性の化合物が吸着し、ピーク形状が悪化する原因になるといわれています。アニオン性の化合物はバイオ分析のもっとも大事な測定対象が多く含まれています。
現状のHPLCはバイオ分析用に作られているとは全く言えません。
PEEKにもいろいろくっつくようですが、なにはともあれステンレス鋼材(SUS)を流路から排除する必要があります。また、ステンレス鋼材から金属イオンが溶け出す(水は最強の溶媒)とも言われており、溶け出した金属イオンが、アニオン性の化合物と相互作用したり、イオン化抑制を起こしたりするといわれています。

となると、ステンレス鋼材を使わず、生物不活性(バイオイナート)素材でHPLCシステムを構成することが、バイオ分析の第一歩になります。これには、

1.バイオイナートのHPLC装置、セミミクロ、ミクロ、ナノスケール
2.バイオイナート素材のカラム、トラップカラム、プレカラム、カラムホルダー
3.バイオイナート素材のバルブ。セミミクロ、ミクロ、ナノスケール用
4.LC-ESI-MSではESIイオン源のスプレーニードル
5.メタルフリーの水、メタノール、アセトニトリル、ギ酸、

が必要です。

1.については、すでにバイオイナート化されたセミミクロスケール用のHPLCが、国産だと島津製作所をはじめ、各社から市販されています。SUSをセラミック、チタンやPEEKに変更した装置です。ただ、バイオ分析の主戦場となると思われる、ミクロスケールの装置たなると、まだまだこれから、という状況です。ナノスケールはAMRさんとかに聞くといろいろありそう。
2.カラム管の内壁をガラスコートしたバイオイナートカラムもSGECERIなどから、セミミクロスケール+C18の組み合わせで、出始めています。どうもフリット部分がむつかしいようです。今後は、ミクロ、ナノスケール用のカラムでもバイオイナート化が進み、さらに、トラップカラム、プレカラム、カラムホルダーがでてくると完璧ですね。また、CERIさんカラムの管に、このメーカーの固相を詰めたい!などのわがままなユーザー向けのカラム充填サービスが登場すると嬉しいです。
3.もバイオイナートバルブがアジレントからが出しています。探せはいろいろありそうです。
4.SUSに接する部分を極力減らしたものが、ABSciex用に市販されております。作ることはできるようなので、各社出そろうといいですね。
これらの対策のご利益はCERIさんがテクニカルレポートとしてまとめておられ、やはり、ピーク形状の改善に効果があるみたいです。

とりあえず、バイオイナート化をすすめましょう




2018年10月1日月曜日

ロキ古細菌

ここしばらく、アーキアの代謝がマイブームである。真核生物は、アーキアの細胞内に原核生物が共生して、20億年前までには成立したらしい。水素仮説によれば、アーキアのユーリ古細菌門に属するメタン菌(嫌気条件下でメタンを生成しつつ、二酸化炭素と水素から有機物を合成可能)とαプロテオバクテリア(酸素が乏しい環境では発酵によって生き続け、水素と二酸化炭素と酢酸塩を細胞外に排出する)がお互いの排出物を利用しあう相利共生関係を持ち、さらにそれが細胞内共生へと発展したと考えられる。実際有機酸酸化細菌と、メタン菌との共生関係がよく観察されることから、有力な説とされている。一方、真核生物とアーキアが持ち、原核生物が持たない分子メカニズム(アクチン様タンパク、低分子量GTPアーゼなど)に注目し、真核によく似たアーキアを探す試みが最近活発化している。これまでに、ユーリ古細菌とはべつのクレン古細菌のほうが、類似点が多いことが明らかになり、これ以上は培養可能な菌からは見つかりそうにないので、メタゲノム解析データから、ゲノムを再構成するというアプローチがとられている。2015年の論文では、北極海のロキの丘と呼ばれる熱水噴出孔の付近から採取された培養できないアーキアの5,381の遺伝子を含むゲノムがメタゲノム解析から再構築された (Kegg organismにはLokiarchaeum sp. GC14_75としてすでに収録されている)。解析の結果、従来知られているアーキアとは大きく異なること(そこでロキ古細菌門を新たに作った)、系統樹解析からアーキアの中で最も真核生物に似ていることが示された。また、2016にはこの生物が水素に依存しているらしいというか、メタン菌に必要な遺伝子を持つらしいことが報告され、水素仮説と整合があることからも、真核生物とアーキアの間を埋める生物である可能性が取りざたされている。ちなみにKEGGによるとLokiarchaeum sp. GC14_75の再構成ゲノム中には、グルコースから乳酸に至る解糖系が通っているなど代謝屋としても注目ポイントが高い。
この領域はメタゲノム解析+ゲノム再構築という技術をてこに、これからも多くの発見があるだろう。たとえば最近になって、より真核生物に近いとされる「ヘイムダル古細菌」がみつかったりしている。
が、はたしてこの方法できちんとしたゲノムが再構成されているのかについては疑問が多い。例えば、2017年の論文では、Lokiarchaeum sp. GC14_75のゲノムデータで系統樹解析をやり直している。すると、EF2という遺伝子のデータを抜いたら、Lokiarchaeum sp. GC14_75はユーリ古細菌に属するという結果になった、メタゲノム中のアーティファクトによく注意した再検討が必要だろう。と、報告されている。
たしかに、
  • 真核生物の成立は進化の過程で1回しかなかったらしいが、メタン生成菌とバクテリアの共生は現在でも見られる、1回しか起きなかった理由がうまく説明できない。
  • 真核生物にはメタン生成に必要なheterodisulfide reductaseの遺伝子を持つ生物はいないようだ。
というあたりで、メタン生産菌を念頭に置いた水素仮説そのものも再検討が必要だろう。いずれにせよこれらのアーキアの代謝特性が、現在の真核生物の代謝とどのように関連しているのかにはものすごく興味があります。

2018年7月18日水曜日

第161回 質量分析関西談話会プログラム


161回 質量分析関西談話会プログラム
「四重極について学ぶ」

201884日(土) 1500分~1800

島津製作所関西支社マルチホール (会場定員60名)
大阪市北区芝田1-1-4
大阪梅田 阪急ターミナルビル14
JR大阪駅ホーム北側に隣接するビルです。阪急17番街のエレベータで14階までお越しください。)
電話06-6373-6522

四重極質量分析装置は最も広く普及しています。人生ではじめてつきあった質量分析装置が四重極という方は多くおられると思います。また、特に薬物動態分野の歴史は液体クロマトグラフ/トリプル四重極質量分析装置の発展とともにあり、多くの分析屋の相棒として活躍してきた四重極質量分析装置ですが、その原理や、発展の歴史、開発者の思いなどを知る機会は限られています。そこで、今回の関西談話会では、四重極質量分析装置に焦点を当て、原理や、発展の歴史、開発者のみなさまからお話を伺う機会としたいと思います。多くの方のご来聴を歓迎します。


講演プログラム:
15:0015:50:石原盛男氏(大阪大学大学院理学研究科)
「四重極型質量分析装置のしくみ(仮)」
15:5016:40:窪田雅之氏(サーモフィッシャーサイエンティフィック):
「トリプル四重極質量分析装置の歴史」
休憩
17:0018:00:御石浩三氏(島津製作所)
「四重極質量分析装置の開発」

参加費:
無料
講演終了後、簡単な懇親会を予定しております。懇親会に参加される方は当日会場にてお志を集めさせていただきます。

参加申込み:
参加希望の方は、(1)氏名、(2)所属、(3)メールアドレス、(4)日本質量分析学会
会員/非会員の別を添えて、下記メールアドレスにお申し込みください。
kansai17_%_mssj.jp (送信の際は、_%_@に変えてください)
関西談話会世話人代表 松田史生(大阪大学)


世話人:川畑 慎一郎(島津製作所)、黒野 定 (和光純薬工業)、豊田岐聡 (大阪大学)、松田 史生 (世話人代表、大阪大学)

2018年6月13日水曜日

mfapyインストール方法

mfapyインストール方法


180613
200730 改訂

mfapyとはpythonベースの13C-MFAデータ解析用ツールボックスです。大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報計測学講座で開発を進めています。OpenMebius[論文] のPython番という位置づけで2012年ころより開発を開始しましたが、Toolbox化することで大幅に機能を拡張したため、互換性は全くなく、コードベースも別になっています。

変更点

ver 0.5.0
・pyfluxもfluxpyもpymfaもすべて使われていたため、mfapyになりました。
・python3に変更しました。さらにAnacondaの使用を推奨としました。
・python3に対応しないpyOptをあきらめnloptにソルバーを変更しました。また、有効な大域最適化法が見つかりました。
・1スレッドと並列実行のコマンドを統合しました。mfypy.metabolicmodel.MetabolicModel.fitting_flux()など。
・G-indexに対応するため、モデル定義ファイルを拡張しました。
・反応の制約に"pseudo"を追加しました。化学両論行列(フラックス)の計算では無視するが、アトムマッピングでは考慮する反応です。これでG-indexが使えます。
・set_configure => set_configuration などコマンド名を修正しました。
・GitHubにて公開しました。
ver 0.5.1
・炭素数10以上の中間体に対応しました。これにあわせてモデル定義ファイル//Target_fragmentsのフラグメントの表記がGluc_12345からGlu_1:2:3:4:5に変更になりました。付け焼刃感たっぷりです。
ver 0.5.2
・mfapy.mdv.correct_natural_isotope()
・mfapy.mdv.add_natural_isotope()
を追加しました。モデル定義ファイル//Target_fragmentsの5列目に組成式を記述すると、それをもとに、天然同位体比の補正(足す、除く)をやってくれます。
また、試験的に
・mfapy.metabolicmodel.MetabolicModel.set_configuration()

・add_naturalisotope_in_calmdv = "yes"
とすると、MDVの計算時に天然同位体比のを足す補正をしてくれるようにしました。MS/MSデータは未対応なのでご注意を。
ver 0.5.3
・19/06/28 class MdvData: add_gaussian_noise "normalize" option is newly added.
・19/07/01 optimize: def fit_r_mdv_deep add global optimization by "GN_CRS2_LM" before iteration
ver0.55
・19/12/27 All "is" was removed to support Python 3.8
ver0.56
・20/5/17 H0ratio = 0.9893 and H1ratio = 0.0107 were changed in generate_calmdv
・20/5/17 H0ratio = 0.9893 and H1ratio = 0.0107 were changed in set_experiment
・20/5/17 get_degree_of_freedom was corrected. if mode is "ST", number of free metabolites were extracted from degree of freedom
・20/5/17 search_ci in metablicmodel: New input parameter "outputthres" was added
ver0.57
・20/7/12 initializing_Rm_fitting, fit_r_mdv_scipy, fit_r_mdv_nlopt in optimizaton: Expection is newly raised to avoid error in  paralell proceccing
・20/7/13 joblib instead of pp is employed for paralell proceccing
・20/7/30 Format of model definition file was updated to support external with a backward compatibility
・20/7/30 load_metabolic_model_reactions in mfapyio: Support external id
・20/7/30 load_metabolic_model_metabolites in mfapyio: Support external id
・20/7/30 load_metabolic_model_reversibles in mfapyio: Support external id
・20/7/30 load_metabolic_model_fragments in mfapyio: Support external id
・20/7/30 External id data was added to Example_0_toymodel_model.txt
・20/7/30 External id data was added to Example_1_toymodel_model.txt
・20/7/30 show_results in metablicmodel: Output format was modified for more beautiful alignment
・20/7/30 show_results in metablicmodel: "checkrss" option was added to check RSS levels of each fragment and "fitting" reactions and metabolites.

注意点

・まだバグがありそうなので、見つけ次第報告お願いします。

入手

https://github.com/fumiomatsuda/mfapy
からダウンロードしてください。

インストール

1. windowsのユーザー名(フォルダ名)は1 byteアルファベット、スペースなしであることが無用なエラーを防ぐ。
× 松田
× Fumio Matsuda
〇 FumioMatsuda
この例ではFumioMatsuda

2. これまでのpythonをすべてアンインストール

3. mfapyを例えば
C:\Users\FumioMatsuda\mfapy
に置く

4. Anacondaをダウンロード
https://anaconda.org/
の右上のDownload Anacondaをクリック。Sign Upは不要
Python3.6 version, 64 bit versionの最新版をダウンロード
古いバージョンはここから https://repo.continuum.io/archive/


5. デフォルトのままインストール

6. スタートメニューのAnaconda3(64-bit)=>Anaconda Promptを起動
(base) C:\Users\FumioMatsuda>
というコマンドプロンプトが出る。
(base)は現在の環境名
C:\Users\FumioMatsuda>は現在参照しているフォルダのパス
> dir
でフォルダの中のファイルのリストが見れる。
> cd mfapy
でmfapyフォルダに移動可能
> cd..
で一つ上のフォルダに移動

7. 仮想環境をmfapyを構築する。
> conda create -n mfapy python=3.6 numpy scipy matplotlib=2.1 joblib
質問されたら y でお返事

8. 仮想環境mfapyをactivateする。
> conda activate mfapy
(mfapy) C:\Users\FumioMatsuda>
環境名がmfapyになる。

9. 他のパッケージをインストールする(この順番が大事)
> conda install -c conda-forge nlopt
> conda install -c anaconda mkl-service 

10. mfapyをインストールする
現在参照しているフォルダをmfapyにする
(mfapy) C:\Users\FumioMatsuda\mfapy>
> python setup.py install

11. unittestを行う。
続いて
> python setup.py test
と入力、なにやらでてきてエラーなしでOKと出ればインストール成功

12 PyScripter をインストール
https://sourceforge.net/projects/pyscripter/
64bit (x64)用のv3.4.1以降をダウンロード
 /PyScripter-v3.4/PyScripter-v3.4.1-x64-Setup.exe
をデフォルトでインストール
3.4.1以降で仮想環境に対応した(えらい) 

13 PyScripter を起動、仮想環境を設定
メニューのRunの一番下から2番目Python Versions=>Setup Python
"+"ボタンを押し、
C:\Users\FumioMatsuda\Anaconda3\envs\mfapy
選ぶ。Unresigtered versionに
Python 3.6 (64bit) C:\Users\FumioMatsuda\Anaconda3\envs\mfapy
が追加されるので、選択して左上の歯車ボタン。緑の矢印で選択される。

14 動作のテスト

C:\Users\FumioMatsuda\mfapy\script\
にExampleがあるので、これがすべて動くかを確かめる。 
このファイルをもとに使い方を勉強する。

質問など

コードの追加、修正案、バグのレポートは松田まで。
 特にEMU構築のあたりが泥沼になっているので、リフォームが必要

Todo

  • スキャンデータからのMDV取得
  • バグがないかの確認


2018年5月4日金曜日

Rでオイラー法を解く


#one reaction
step_num <- 10000
dt <- 0.001
S_initial <- 100
P_initial <- 0
k1 <- 1
S <- numeric(step_num+1)
P <- numeric(step_num+1)
t <- numeric(step_num+1)
S[1] <- S_initial
P[1] <- P_initial
t[1] <- 0
for (i in 1:step_num){
  S[i+1] <- S[i] - k1 * S[i] *dt
  P[i+1] <- P[i] + k1 * S[i] *dt
  t[i+1] <- t[i] + dt
}
plot(t, S, ylim =c(0,120))
points(t, P, col="red")

2018年4月8日日曜日

ZWF

グルコース6リン酸を酸化して6-ホスホグルコン酸に変換する酵素タンパク質(グルコース6リン酸脱水素酵素, glucose 6-phosphate dehydrogenase, G6PDH)をコードする遺伝子記号は、伝統的にZWFあるいはzwfなどと表記されます。他の酵素遺伝子の記号は、pgi = phosphoglucoisomerase, hxk = Hexokinaseのように反応名の略称の場合が多いのでふしぎだなと思っていたのですが、とある総説が答えを教えてくれました。

Stincone et al. The return of metabolism: biochemistry and physiology of the pentose phosphate pathway.Biol Rev Camb Philos Soc. 2015 Aug;90(3):927-63.

がん代謝のワールブルグ効果で有名なドイツのOtto Warburgが1935年ころの一連の論文で電子運搬体としてNADH, NADPHが存在すること、グルコース6リン酸を酸化して6-ホスホグルコン酸に変換する酵素はNADP+を電子受容体として要求すること、酵母からこの酵素を精製してZwischenferment ('intermediate enzyme'という意味らしい)と名付けたことが由来だそうです。
あと、この論文のタイトルかっこいいですな。。スターウォーズの初期3部作の最後ジェダイの帰還”Return of the Jedi”の引用なのかしらと思って調べてみたら、そもそもがトールキンの指輪物語3部作の最後”The Return of the King”の引用で(中学校で読んだぞ、懐かしい)、たぶんこれも何かの引用なんでしょうか、、あとこの総説が3部作になっているの??

2018年3月29日木曜日

林業的バイオプロダクション

バイオプロダクション、というのは植物が光合成で固定した炭素(バイオマス)を微生物の代謝能力で有用な化合物、例えば燃料やプラスチック原料に変換しよう。というものです。工学的な発想だと、でかい石油化学コンビナートの原料を石油からバイオマスに、触媒を微生物に変換したらいいじゃん。と考えます。この工業的バイオプロダクションがバイオプロダクション技術の背景にある基本思想といっていいでしょう。地下から湧き出て輸送効率がいい石油が原料なら、一か所にでかい設備を作るのが正解ですが、問題は、バイオマスというのは地理的に薄く広がった資源である。ということと、再生可能とはいえ、再生には時間がかかるということ、軽くて運搬するエネルギーがもったいないということと、バイオマスの運搬=土地から栄養素を奪うことにつながることだと思います。
工業的なバイオプロダクションがあるなら、農業的なバイオプロダクションというのもありじゃんと思います。けど、特に食料自給率の低い日本のような国では食べ物を作れる土地があるなら食べ物を作ったほうがいいですよね。
となると、残るは林業的バイオプロダクションです。そもそも、石炭石油の時代が来るまでは、山から切って来た木で燃料をまかない、いまならプラスチックで作るようなものもみな、木や竹を加工して作っていたのです。植物が光合成で固定した炭素(バイオマス)を微生物変換抜きで直接使っていたといえるでしょう。ただ、木を資源として復活させるには、切ってきて山の下まで運ぶのがとっても大変だというむつかしい問題があります。植物の光合成とは、光エネルギーを還元力(電気)あるいは化学エネルギーに変換し(光反応)、ついでそれらを利用して炭素を固定します。炭素として固定されちゃうと運ぶのが大変なので、
・林道沿いの木の樹冠に安価な太陽電池パネル(シート)をかぶせる感じでドローンで敷設する。太陽電池パネルからは電線で電気を集める(できれば太陽電池パネル(シート)と電線は生分解性のものがよい。10年くらいでだめになり、そのうち土に返ってほしい)。木が光合成に使う光エネルギーを一部電気として使わせてもらう。
・それから植物で発電ができる可能性があるらしい。山全体でやればいいじゃん。
・発電した電気は中山間地のエネルギーとして利用する。
・あまった電気は、エコひーぽんみたいな小型プラントに送りこむ。その中では電極から受けとった電子で炭素固定ができる微生物が炭素固定を行い、プラスチック原料へと変換する=微生物蓄電とする。
・固定したプラスチック原料がある程度たまったら、回収して地方中核都市にある工業的バイオプロダクション施設に売り払う。
・山の中に住んでるやつが、最後は勝つ。
という林業的なバイオプロダクションは、ありえませんかね。

2018年1月14日日曜日

データベース検索はヌル分布

たとえば、万引き犯を捕まえる役になったとしましょう。
万引き集団100人がお店にやってきて被害を受けました。ブラックリストを作りたいので防犯カメラに犯人のそれぞれの写った特徴から、お店の顧客リストと照合して犯人を特定すればいいじゃんと考えます。

そこで、ある基準で万引き集団100人と全顧客の特徴の類似度をすべて計算して、ある閾値以上の類似度だったら、あたりとして探索してみました。

そうすると、
x 該当する顧客が1名当てはまった犯人 x人
y 該当する顧客が1名以上当てはまった犯人 y人
z 該当する顧客が1人も当てはまらなかった犯人 z = 100-x-y人
の結果が得られます。

この結果を基に、お店の顧客をブラックリストに載せていいものでしょうか?

ここで考えるべき点は、間違っていたらおおごとだという点です。どうしても防犯カメラの特徴からだけでは、特定は難しいので

1.本当は犯人ではない顧客(シロ)を、誤ってクロとしてしまった可能性(偽陽性)

はあり得ます。そもそも y のように該当する顧客が二名以上当てはまったということは偽陽性がおきていたということです。

じゃあ、閾値を厳しくすると、

2.本当は犯人の顧客(クロ)を、誤って見逃す(シロ)する可能性(偽陰性)

がふえてしまいます。

そこで、とある識者に相談してみました。識者は、
お店の顧客リストに載っている100人を仮想的に犯人と見なし、このお客さんの防犯カメラ画像をつかって、同じ作業をしたところ、類似度トップ3に90%の割合で正解が入っているから、類似度を調べる方法としてはこれでいいのではないだろうか?
ということを教えてくれました。

この識者からの情報は一見意味ありげですが、すぐあまり役に立たないことがわかります。最大の問題点は、
3.お店の顧客リストに犯人がふくまれているのかそもそもわからない点にあります(カバー率)。従って、実際は、類似度トップ3に90%の割合で正解が入っていることはまったく保証されません。

4.こうなると、類似度の閾値の相対的な大小(トップ3)とかではなく、類似度の絶対値で判定するしかありません。

こういう不思議なことをいう識者はあまりいないとおもいますが、だまされないようにしなくてはならないですね、、、、自分で自分が何を言っているのかわかってない、、んですかね、、

そこで、別に相談してみました。するとこういうことをしてみよう。と言っています。

5.お店の顧客リストに"載っていない"ことがわかっている10000人の、防犯カメラ画像をつかって、同じ作業をしてみます。そうすると、10000個のデータの他人との偶然の類似度の分布を知ることができます(ヌル分布)。このヌル分布がわかっていれば、たとえばヌル分布の上位1パーセンタイル点(例えば10000個のデータの大きい方から100番目)の類似度値もわかります。これを閾値として、万引き集団100人と全顧客の特徴の類似度をすべて計算したとき、シロの人が偶然、閾値以上となる可能性は1%(誤ってヒットする確率γ = 0.01)なので、誤ってシロをクロとする偽陽性だと推定する期待値は1人と推定できます。(いろいろ簡略化してます)

6.お店の顧客リストに載っていることがわかっている10000人の、防犯カメラ画像をつかって、同じ作業をしてみます。そうすると、自分に一致するときの類似度がどのくらいになるのかの10000個のデータで分布を作ることができます。先ほどの閾値を使ったとき、この分布があるとクロを正しくクロと判定する確率(β)もわかりますよね。

で、最後までわからないのは、お店の顧客リストに犯人が何%含まれているのかのカバー率(α)です。

何を言っているのか、だれにもよくわかんないらしいのですが、どうやらここまでの話をまとめてみると、

・お店の顧客リストに犯人含まれるカバー率 α
・犯人がお店の顧客リストに含まれているときに正しくヒットする確率 β(1-偽陰性率)
・他のお客が誤ってヒットする確率 γ(おおよそ偽陽性率)

のうち、βとγは調べられるのだけど、αはわからないというのです。

そこで、先ほどの

x 該当する顧客が一名当てはまった犯人 x人
y 該当する顧客が二名以上当てはまった犯人 y人
z 該当する顧客が一人も当てはまらなかった犯人 z = 100-x-y人

という区分で該当する顧客が一人も当てはまらなかった犯人zの数の期待値は

z = 100 * ((1-α)*(1-γ) + α*(1-β)*(1-γ))

という式で書くことができます。
(1-α)*(1-γ) は顧客リストに載っていない犯人(1-α)が、他のお客が誤ってヒットしない(1-γ)確率
α*(1-β)*(1-γ)は顧客リストに載っている犯人が(α)、自分自身にヒットせずに(1-β)、他のお客が誤ってヒットしない(1-γ)確率
です。

実際にこのとき、γ とβがわかっているので、実際に万引き集団100人と全顧客の特徴の類似度をすべて計算してある閾値以上の類似度ヒットとしたときの、zからαが推定できますよね。

さらに一名以上のヒットがあった万引き犯 x+y 人の中の誤りの期待値は、100*γ人というところまで推定できます(偽陽性率 = 100*γ/(x+y))。

偽陽性が推定できると、こういう結論を出すことができます。

万引き犯100人について、全顧客データベースを照合したところ40人がヒットしました。このうち、シロをクロと誤った偽陽性の期待値は1人なので、かなりの確信を持ってこの顧客がクロであるといえます。

とか、

万引き犯100人について、全顧客データベースを照合したところ80人が、ヒットしました。このうち、シロをクロと誤った偽陽性の期待値は40人なので、あまり確信がありません。何らかの別の方法で犯人を絞りこむ必要があります。

といった、建設的な議論が可能になります。

要するにヌル分布(だけ)が大事なのです。ヌル分布がないデータベース検索の話にはご注意を。





2018年1月11日木曜日

いい湯加減の第9

昨年の年末から新年にかけて、ベートーベン第9交響曲、いわゆる第9を聞いていたーーとくに第4楽章で一回合唱でがーっと盛り上がったあと、トライアングルのリズムとピッコロによるトルコ風行進曲のなんかちょっと軽い感じの伴奏をバックにしてテノールが歌いまくった後に急に始まる、やや切迫感のある弦楽のスケルツォ風フゲッタがお気に入りで、このパートの後、あの有名な大合唱が始まるあの部分であるーー、というのもそもそもは、チェリビダッケのテンポが遅い録音を聞いたことにはじまっていて、このスケルツォ風フゲッタのパートに関していうと、この遅さがドンピシャであり、さらにチェリビダッケ+ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の異様に純度の高い演奏のせいで、なんだかとても感動してしまったのであるが(ときどきこうなる)、同じパートをたとえば、カラヤンとか、ヴァントとか、フルトウェングラーなどで聞くと、かっとぶかのような高速テンポですいすいとすすむため、感動している暇がないのはなぜだとばかりにいろいろ聴いてみると、そもそも第9交響曲の正しい姿というのはもはや誰も知らないわけで、指揮者が結構勝手にテンポを設定して好きに演奏していたらしく、90年代ころの古楽器ブームの中で、極力元の姿、楽譜に忠実にといういい子ちゃんな観点から、ガーディナーの録音が高く評価されたりして、これはこれで大変素晴らしい演奏で愛聴しているのだけど、ただ、肝心のスケルツォ風フゲッタ部分は楽譜の指示通りに弾くと、アナタ、速い、速すぎるあるよ、というテンポになってしまうようでおいおいと思っていたところ、異同を整理したベーレンライター版の楽譜が出た1996年に以降は原典というアイデアも怪しくなってきたという話にふーんと思って聴いてみた2010年のティレーマンの録音の快速っぷりに、もうこれはこれでありかなぁとも納得させられてしまった年末年始なのであった。で、昨日Youtubeでムーティ+シカゴ交響楽団の演奏を発見し、いい湯加減のテンポの遅さに、癒やされたのでした。問題の場所は1時間5分目くらいから始まります。